君が泣くなら (g36) ページ19
＿
｢離してよ…！｣
腕の中で藻掻く葵を離さないように、力いっぱい抱きしめる。奥さんがいるひとをすきになって、体を繋いで、結局家庭を優先させると言って、そいつは去ってしまったという。
弱さにつけ込むには、今しかないと思った。
彼女から連絡がきて、彼に捨てられた、とか細い震えた声を聞いたときは、申し訳ないけど嬉しかった。俺はずっと葵がすきだったから。心配するように彼女の家に駆け付けて、涙に濡れた頬を撫でて、思い切り抱きしめて。抵抗する身体を押さえつけるように、強く強く。
｢お願い、離して…｣
｢いやや｣
｢…っ、なんで、｣
彼の感触を忘れちゃうから、そう泣きながら言う。なんだそれ、なんだよ彼の感触って。俺とは違うんか、そう心の中で吐き捨てながら、苛立って、さらに強く抱きしめ直した。
すると、葵は諦めたように、抵抗をやめた。今度は縋るように胸元に顔をうめてきて、本当に都合の良い女だと思う。だけど。
慎吾ちゃんと笑う表情がすきで、堪らなくて。都合よく使われても、俺はこのひとを諦めきれない。結局、それさえも特権だと思ってしまう。
｢慎吾ちゃん…｣
｢…まだ好きなん？あいつのこと｣
｢…うん｣
｢ほんまあほやな｣
｢…うん。でも、やっぱり…っ｣
｢捨てられたんやで、葵は｣
｢……っ｣
ああ、そのかわいい顔を歪ませて、別の男を思って泣かないでほしい。目の前にいるのは。
｢…俺がおるやん｣
｢…え……？｣
｢俺じゃ、あかんの…｣
｢…し、んごちゃん？｣
｢好きな女の不倫が終わって、俺は喜んどるんやけど｣
…ほんまに気付いてなかったんやな。
表情をみてそう思った。そして、そう告げた瞬間、彼女は全力で俺を突き放した。
｢…嫌いになった？｣
｢ちが、｣
｢じゃあそんな、突き放さんでもええやん｣
｢…っ｣
｢葵｣
｢慎吾ちゃんの気持ちを聞いて、今、抱きしめられてるのは、私……ずるいよ｣
つい、笑ってしまう。そういう、どうしようもない優しさが、俺を苦しめて逃さないというのに。
ただ、そういうどうしようもない優しさに、俺は何度も救われてきて、愛おしいと思ってしまった。
｢…ほんま、しょうもない女｣
そう、吐き捨てて、もう一度彼女に腕を伸ばした。
＿fin
タイムリーうれしい…！大勝でした〇
でもなぜか切ないおはなし。
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aoi(プロフ) - りょうさん» りょうさま、こんばんは＊コメントありがとうございます。いつもあたたかいお言葉、本当にうれしいです。これからもそう言ってもらえるおはなしを、書いていけたらなあと思います！ (2019年11月7日 20時) (
レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - 更新ありがとうございます。やっぱりaoiさんの文章大好きです…きゅんきゅんしながら読み返しました。これからも楽しみに更新お待ちしてます！ (2019年11月7日 1時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りょうさん» はじめまして＊こちらこそ、もったいないお言葉ありがとうございます。これからも読みたいと思ってもらえるおはなしを、描いていければなあと思います！コメントありがとうございました＊ (2019年10月23日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - はじめましてaoiさんの野球選手小説大好きで、何回も読みに来てしまっています。また新しいお話を書いてくださるのを楽しみにしています！ (2019年10月23日 16時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます＊気が向いたら、おはなしを思いついたら、書きたいなあとは思っています。はっきりと言えませんが、また遊びにきてくれると嬉しいです＊ (2019年7月30日 22時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：aoi | 作成日時：2019年2月18日 23時
