そっと隠すよ (g6) ページ20
＊悲しいおはなし
＿
｢葵｣
勇人さん、と呼ぶ声が好きだった。少し、浮かれていたから。そのまま器用に手を繋いで、指先を絡める。そんな動作のひとつひとつを、こんなにも愛していたというのに。
彼女は突然、俺の前からいなくなってしまった。
今日のお夕飯は勇人さんの好きなメニューにするね、とかわいらしい連絡が来ていたのに。夕食を作るためにひとり、買い物にでた帰り道、信号無視をした車と接触して、葵はどこかへ連れていかれてしまった。
デーゲームを終え、手にした携帯。何件もかかっていた着信。嫌な予感のまま、震える指で掛け直した。ああ、どうして。
もう一ヶ月も経とうとしているのに、ぽっかりと空いた傷口は塞がることはなくて。当たり前のように日々は過ぎるのに、俺の周りには彼女との想い出ばかりだから、傷口はどんどん広がってしまった。
｢…綺麗やったな、最期まで｣
病院で終わりのない眠りに付いた彼女は、事故にあったとは思えないほど、綺麗な顔をしていた。ただ、冷たくて。触れても触れても、温かくならなくて。名前を呼んでも、返ってもこなかった。
涙なんて出なかった。実感がないまま、今の今まで過ごしてしまった。まだ、一度も泣いていない。
とびっきりの笑顔の彼女に触れる。フレームに囲まれて、紙切れ一枚の葵でさえ、愛しいと思ってしまう。
｢…痛いんや、ずっと｣
｢傷が、瘡蓋にもならへん｣
｢…なあ、どうしたらええの｣
ああ、分かっている。葵の返事がないことくらい。でも、もっと分かってしまうのは。彼女はきっと。
｢勇人さん！何うじうじしてるんですか！私のことなんて早く忘れて、すてきな彼女を見つけなきゃ！｣
そう、大きく笑いながら言うんだろう。俺の気持ちなんて考えもせず、まったく勇人さんは、なんて付け加えて。
｢あほやなあ、｣
隠そうとしていた傷口から、涙が溢れて止まらなくなった。そっと隠してくれた彼女は、もうどこにもいないから、それはいつまでも零れてしまうんだろう。
＿fin
最近、対カープ戦を見に行きました。負けてしまいましたが、キャプテン大活躍ですてきでした。なのにとても悲しいおはなしですみません。
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aoi(プロフ) - りょうさん» りょうさま、こんばんは＊コメントありがとうございます。いつもあたたかいお言葉、本当にうれしいです。これからもそう言ってもらえるおはなしを、書いていけたらなあと思います！ (2019年11月7日 20時) (
レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - 更新ありがとうございます。やっぱりaoiさんの文章大好きです…きゅんきゅんしながら読み返しました。これからも楽しみに更新お待ちしてます！ (2019年11月7日 1時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りょうさん» はじめまして＊こちらこそ、もったいないお言葉ありがとうございます。これからも読みたいと思ってもらえるおはなしを、描いていければなあと思います！コメントありがとうございました＊ (2019年10月23日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - はじめましてaoiさんの野球選手小説大好きで、何回も読みに来てしまっています。また新しいお話を書いてくださるのを楽しみにしています！ (2019年10月23日 16時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます＊気が向いたら、おはなしを思いついたら、書きたいなあとは思っています。はっきりと言えませんが、また遊びにきてくれると嬉しいです＊ (2019年7月30日 22時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：aoi | 作成日時：2019年2月18日 23時
