マイペース妖狐と曇兄弟の生活。

…３…２ ページ34

人間が言っている化け物とは、自分の事だ

と遅くながらそう気付いた時にはもう遅く


夜、恐る恐る水を飲みに外に出たとき

ごつん、と何かが勢いよく後頭部にぶつかった

あまりの衝撃に、そこに倒れた自分の視界に映ったのは

大きな石を持った男と、提灯の明かりを持った男…

大勢の人間の集団


やったか?

だとか

まだ息をしている

だとか

そんな会話が聞こえた


後頭部に手を触れると、ねっとりとした生暖かい感覚。

血が出ている

そう思った時に、痛みが増した


痛い

痛い痛い痛い痛い痛いっ!!!!!


しかし、何の言葉も漏れないまま

刃物がこちらに触れ

赤いものが飛び散ったりした


しばらく痛さだけに溺れていた

痛い以外の文字の頭に浮かばず

混乱も自分に追いつくことなく

痛さだけを訴えていた


目が痛い

腕が痛い

足が痛い

腹が痛い

背中が痛い


どこもかしこも痛いところだらけだ


やられてばかりのせいで、瞑っていた目を薄く開いた時

月がまぶしいくらいに感じた

その眩しさを振り払うように

人の集団から抜けようと暴れる

所々で、叫び声が聞こえた


はぁっ、と息を大きく吸って走り出す


瞬間、こちらに松明が投げられた

ｼﾞﾘｯと、服が燃える音

何故かそれは聞こえた

熱さを訴える声も出ず、川の方へとまた倒れこむ


けれど、今回は倒れてそのまま。というわけではなかった

すぐに起き上がり走った


すぐに火を消したのは良いものの

火傷を複数負った


左目…片方が見えない…っ

火傷したところが痛い

刃物が突き刺さったところが痛い

殴られた場所が痛い

蹴られた場所が痛い

痛い事ばかりで、気が狂いそうだ


しかし、その痛さにやられてしまっては

後から来る恐怖の塊に殺されてしまう

そう簡単に死ねないのがまた困りものだ


荒々しく、草をかき分ける音がこんなにも恐怖だと感じるのか


涙すらも出ない状況で、逃げて

逃げて逃げて逃げまくって、家にたどり着いた瞬間

ぼうっと炎がその家に着く


――は?


…簡単に崩れていく家を、マヌケな顔で見る自分

の

髪をぐい、と引っ張り地面に伏せさせられた

そこで

腕を掴まれ、足をおさえられ

逃げ場を失った。


刃物が月の明かりで怪しく光って


そのままこちらに振りかざされた。

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