山吹が散る頃に【ぬらりひょんの孫】弐

山吹54 ページ14

「鯉伴さん！」



そう言って、出てきた若菜



目はいつもの笑顔で、頬もほころんでいる。



何か、嬉しいことでもあったのだろうか？



そう考えたのも束の間で、あることに気が付いた。



いつも桜の上からだったので、よくは見えなかった顔色だが、間近にいる今だからこそ、気が付いた。



(顔色が、悪い…？)



そう思った瞬間、鯉伴が立ち上がり、言った。



「若菜っ、ダメだろ。寝てなきゃ」


「大丈夫よ、鯉伴さん。これくらい」



笑顔で返答する若菜の顔は、確かに辛そうだった。




それが何故か、母の顔と重なった。



「それにね、今日は気分がいいの。」



「……」



そういわれても、鯉伴は不安そうな顔をして、若菜の傍を離れようとしなかった。



その光景を見ていると、内心からじわじわと、憎しみと恨みが湧き上がってくるのが分かった。



(あぁ、駄目だ。ここにいては…
私はここにいてはいけない。)




そういう心境が、Aの中に響いた。



今にもあふれそうな殺気を抑え、出て行く若菜を笑顔で見送った。



(母さんが、もし、そのまま居れば…)



私はリクオのように、家族に囲まれ、あたたく過ごしたんだろう。


何にも知らず、ただただ平凡に暮らしていけただろう。



それは、母さんも望んだことなのに…



(何故、戻らなかったの？母さん。)

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