兄の日記【OVER HEAVEN】 (ページ6)

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兄の日記６ページ6

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《一卵性双生児》というものを知っているだろうか？

一つの受精卵から生じる双生児、いわゆる《双子》だ。わたしとディオはその一卵性双生児からなる双子なのだが…

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「ガハッ……―！！」

「君は一体、この町でなにを見てきたんだ？なあ？」

A…と囁く声に含まれるのは怒り。それと…殺意だろうか？

馬鹿みたいに浴びせられるディオからの暴力に最初は抵抗していたが、所詮は男女の差。彼にとってわたしの抵抗なんて子犬が戯れている程度の事だろう。

痛い。全身が痛い。どうにか上体だけを起こし壁に背を預ける。ディオに殴られ蹴られた箇所がジンジンとズキズキと痛む。ディオはというと、しきりに暴力を振るった後、わたしの目線に合わせるように屈んで言う。

「質問にこたえろよ。」と。

一度咳払いを落とし口を開く。

「地獄。」
「そうさ。俺たちは常に地獄をみてきた、常に地獄を過ごしてきただろう？そこで俺は思ったんだ…このままだと《奪われる》と。」
「お前がなにを奪われるっていうの？」

わたしの言葉にディオは黙る。すると、彼の手がわたしに向かって伸びると優しく触れた。

「A。」
「は？」
「俺はA…お前を失うのが怖いんだ。」
「なに言って…」

わたしの言葉を遮るように…次にディオはわたしを抱き締めた。

「父さんの暴力は日に増すばかりだ。いつかお前を殺すだろう…それが俺にとってどれだけの恐怖かお前にはわからない。ずっと過ごしてきた、ずっと一緒にいた、ずっと共に生きてきた…かけがえのない俺の妹、俺の片割れ…それを失うのが、奪われるのが、どれだけの恐怖か……。」

「俺にはA、お前が必要なんだ。」

はじめて聞くディオの声に思わずわたしは彼の背に手を回した。

「俺の計画を…俺自身を信じてくれ。」

震える声に頷いた。頷かずにはいられなかった。

わたしが信じなくては、誰がディオを信じるというのか…。

《ディオがわたし》で《わたしがディオ》

信じよう。彼は完璧だ。きっと上手くやる。今までもそうだった、大丈夫だ、なにも心配することはない。

わたしは自分自身に言い聞かせる。

不意に落ちないモヤモヤを心の奥底に沈め、いつものように、額を、手を合わせた。

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この時、ディオがほくそ笑んだ事をわたしは知らない。