兄の日記【OVER HEAVEN】 (ページ5)

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兄の日記５ページ5

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わたしの解釈になってしまうが、母を《善》と喩えるなら、父はその真逆の存在である《悪》だ。

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父はこの町の腐った人間を象徴するような存在だった。

育児はしない。
金は稼がない。

やる事といえば、博打に強盗…そして恐喝。

そして、重度のアルコール中毒者だ。

常に酒に溺れ、気に食わない事があると物に当たり散らし、酷い時は暴力を振るったりする。

母が死んでからはどうだ。

稼ぎが減り、酒が買えない状況に父は癇癪を起こした。

母に向いていた暴力が次にわたしたちに向く。

家にいるだけで空いた酒瓶を投げつけられた。
目が合うだけで拳が飛んできた。
気分を害しただけで罵声を浴びせられた。

日に日にエスカレートする父の行動は目に余る。

いつか本当に、ポックリと死んでしまいそうだった。

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限界だ、ディオは確かにそう言った。

そして耳を疑う発言をする。

「父さんを殺そう。」

まるで時が止まったように周囲の音がかき消えた。聞こえるのは、ドッドッド…と強く打ち付ける自身の鼓動音と完全犯罪の計画を淡々と述べるディオの声だけ。考えるよりも先に、わたしはディオの胸倉を掴むと壁に押し付けた。

「その言葉の意味を…お前は理解しているのか？」

自身の声が震える。自身の瞳が大きく揺れる。

　

「強盗や恐喝とは違う。重罪だ。完璧犯罪だかなんだか知らないけどリスクが大きすぎる、誰かに知られでもした瞬間、二人して豚箱行きなんだぞ。」

「父が憎いのはわたしも同じだ。でもあの男のために、わたしたちが手を汚さなくてもいい。そもそも、あの男に殺す価値なんてない。」

「いつも通り過ごそう。ディオは博打、わたしはスリで…二人で金を貯めて、いつかこんな腐った町から出て生きよう…そう言ったのはディオ本人だろう？」

ディオの襟を離し背中を向ける。

「少し頭を冷やせ。父さんのおつかいはわたしが済ましとくから…。」

そう言って一歩、足を動かした時…グイッと肩を引かれたと同時に頬に鋭い衝撃と痛みが走った。よろめいた体はそのまま、重力に従って崩れ落ちる。

衝撃を受けた頬を拭えば血が付いていた。

「随分と偉くなったもんだなA。」

頭上から降る声に顔を上げると、氷のように冷めたブルーの鋭い視線がわたしを見下ろしていた。