兄の日記【OVER HEAVEN】 (ページ1)

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兄の日記１ページ1

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なぜ、その男は筆をとったのか。

なぜ、その男は文字を書きおこしたのか。

わたしには知る由もない。

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筆をとったところで、文字をおこしたところで、目にする者はごく一部の人間、僅かな人間にすぎないのだろう。お目にかかれるのかさえ怪しい。

…いや違う。

もとより、あの男が他人にこう安易と拝借させるわけがないのだ。

この《日記》に関しては。

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だからこその好奇心ともいえる。

あの男が、あの男ともあろうものが、100年の時を経てらしくもない《日記》というものを記した。興味を持たないことの方がおかしい。

漆黒の表紙をかざる一冊の日記には《D》の文字が刻まれている。

所有者のイニシャリズムだ。

ムズムズと痒いこの気持ちに蓋をする気もなければ、心苦しさ…―つまるところ、自責の念などといった感情を私は一切持ち合わせてなどいない。とにかく、わたしの心中にあるのはたった一つ、たった一つのシンプルなこたえだけだ。

兄の…

兄であり自ら兄を、人を捨てた人物、わたしを《殺した人物》、ディオ・ブランドー。いや、今はDIOといったほうがしっくりくる。神でさえ、閻魔でさえ、床に尻をつかずにはいられないほど、悪逆非道のかぎりを尽くした男。

その男が一体、なにを書き記したというのか。
その男が一体、なにを書き残したというのか。

その男は一体、なにを考え、なにを思い、筆をとったのか。

右開きの《日記》に手をつける。

随分と見慣れた筆跡を、わたしは目で追った。