【及川徹】重ねて、忘れて純愛【HQ】 (ページ5)

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「じゃあ、私帰るけどAは？」

「まだいけるから、籠る」

「終電逃さないようにね」

「うん」

学部で唯一の女子の同級生がそう言って研究室を出ていく。
出ていったあと、私と及川くんの2人。

飲み物を買ってすぐの手前、今から帰るなんて不自然。
及川くんに用事とかできないかな。

及川くんがいると、どうしてもあの人を思い出して作業にならない。

「Aさん」

「ん？」

「電子辞書とか持ってますか？」

「ああ、うん」

私はカバンから電子辞書の入った柔らかいケースを取り出して渡す。
そうか、まだ3年だからひたすら論文読みか。

電子辞書で単語を調べてもいまいちわからないらしく、私は見かねて声をかけた。

「どこ？」

「ああ、この最適化問題なんですけどどうやったらこんな短くなるんですか？」

「私もそれ読んだ」

私は机を漁っていつかに教授がくれたひとつの論文を及川くんに渡す。
及川くんは課題が増えたと言わんばかりに嫌そうな顔をする。

きっとあの人はそんな顔しない、違うところを見て少しだけ安心する。

「角度だよ、この論文の方が先に発表されてたからこれを利用してるみたい」

「ありがとうございます」

改めて見ると、本当に及川くんは背が高い。
スタイルはいいのに座っててもわかるくらい。
私はほんの少しの興味で聞いてみた。

「なんかスポーツやってた？」

「なんでですか？」

「背、高いなって」

あの人と及川くんを重ねないようにするため、私のために、少しでも気まずい雰囲気を和らげたいんだ。