【及川徹】重ねて、忘れて純愛【HQ】 (ページ35)

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*及川side

「思わせぶりなんて、ひどいよ」

「それに関してはごめん」

俺だって少し前までは、君と付き合うと思ってたんだ。
Aさんと目の前にいる彼女を比べる。

見た目では絶対にAさんよりも彼女の方が可愛い。
華奢でオシャレで流行にも敏感。

「徹」

そう言って、俺の袖を掴む。
上目遣いで俺を見上げ、言った。

「私じゃ、ダメなの？」

「だめだよ」

俺は優しく袖を掴む手を解く。
研究室のある建物から彼女を出し、研究室に戻ろうと歩みを進める。

最低だ、告ったばっかで彼女(仮)の登場なんて、ありえない。

「Aさん、……Aさん」

ポツンと小さな声で呟いてみる。
声がもう冷たい秋と冬の境目の空気に溶けて、なくなっていく。

空気は冷たいのに、俺の顔が熱い。
Aさんと呼べる日は来るのか、Aさんの中の俺が兄ちゃんを超える日が来るのか。

研究室もドアを開け、第一声で謝ろうとする。

「お騒がせして……」

「徹～、あんたほんとモテるね～！で？好きな人って？」

「いや、それは……」

「冗談だって、ねえA」

「あぁ、うん」

「興味無さそうな顔してるね」

「無くはないかな」

「絶対ないでしょ～」

興味も何も、好きな人だから。
本人もわかってるからか少し恥ずかしそうに俺の方を見ようとしない。

重ねられてる感覚はしない。
でも、あれからまともに話していない。

それがまた俺の胸を締め付ける。