【及川徹】重ねて、忘れて純愛【HQ】 (ページ15)

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*及川side

「もしもし、兄ちゃん？」

携帯の表示をタップして電話に出る。
Aさんは研究室に戻ったらしい。

最悪だ、今兄ちゃんと話したら八つ当たりしてしまいそう。
その心配はすぐに打ち砕かれた。

耳をつんざく大声がスピーカーから聞こえてくる。

「徹！！」

「猛！？電話で大声出さないでよ！」

「サーブ教えろ！」

チビには無理だよと馬鹿にしようとすると、兄ちゃんの声が聞こえた。
俺とは違った少し低い優しい声。

俺だって好きだ、声だけじゃなくて兄ちゃんのことが。
昨日のことを思い出すと、イライラが募る。

「ごめんごめん、猛が徹と話したいって」

「え、それだけ？」

「父ちゃん！徹に用あるの俺！」

俺はそっと電話を切った。
猛のことだから電話を通して教えろとかいうんでしょ、と思った。

俺は速歩でAさんを追いかけるように研究室に入ろうとドアノブに手をかけた。

「今度の合コン、Aも行かない？」

「えー、やだよ」

行くわけないでしょ、兄ちゃんのことが好きなんだから。
俺は手首をひねって研究室のドアを開ける。

「合コン、行くんですか？」

「何、徹、彼女探し？」

「探したことはないです」

視線を感じてAさんを見ると、目が合った。
今まで誰かと目が合った時とは違う。

女子と目が合えば、大抵俺のことをみていたのにAさんは違った。
俺じゃなくて、俺に重なった兄ちゃんを見てる。