01話 バス停のあの人 ページ2
「おはようございます」
私が通学に使うバスのバス停。
そこにはいつも、先客がいる。
挨拶をしても、返ってこないのはいつもの事。
慣れっこなので、特に気にするでもなく、
私はベンチに腰をおろす。
バスは、まだ来ない。
「今日は何を読んでいるんですか?」
「檸檬」
「あぁ、梶井基次郎ですね。檸檬爆弾の」
先客、とは、バス停で一緒になる石田さんだ。
彼は、私の降りるバス停の3つ前で降りる、
有名な進学校の生徒だ。
偶然、読んでいた文庫本が同じで、
思わず声を掛けたのが、
彼との関係の始まりだった。
まあ、"関係"と言っても、
ぽつぽつと本の話をするぐらいなのだけれど。
「檸檬、いいですよね。
読んでいて気持ちがいいというか」
「あぁ」
石田さんの手元に視線を落としながら、言う。
石田さんは話を聞いているのかいないのか、
わからない。
きっと、半々なんだと思う。
「バス、来ましたね」
「……」
石田さんが無言で文庫本をカバンにしまう。
バスが来たら、私たちの関係は終わり。
車内では会話をしないから、
このまま各々の目的地へ行くだけだ。
私たちは順々にバスに乗り込んだ。
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作者名:なみだすずめ | 作成日時:2017年3月31日 17時