好きになった瞬間【◆黄瀬】 ページ11
彼女は変わった。
しつこく付き纏ったおかげか
やっと、俺にも笑ってくれるようになった。
「また黄瀬が負けたの?」
いや、言葉の端々は厳しいのだが。
省吾くんとの1ON1に負けて
べばって倒れている傍らに
しゃがみこんでニヤリと笑っている。
「次は勝つっすよ」
「ははっ、メンタル強」
とバシバシと肩を叩いてきた。
距離が近くなった。
そしてよく笑うようになった彼女は
控えめに言って可愛いのだ。
「Aっちって、男から勘違いされないっすか?」
「は?なにが?」
彼女は全くわかっていない。
でも、近くにそれを分かり過ぎてる人がいる。
「お前もその一人になんじゃねぇぞ」
「痛ぇっすよ!青峰っち!」
痛みを感じたと思えば、青峰っちが
俺の耳を思いっきり抓っていた。
まぁ、こんな強固なガードマンが居れば
それを潜り抜ける奴なんてそういないから
Aっちは恋愛について鈍いのだ。
かくいう俺も
別にAっちに対して、恋愛の意味で好きなんて
感情はなかった。
そんな彼女は全中に近付くようになると
急に男バスに来なくなって…
なんとなく気になり、女バスの体育館へ行くと
たった一人でシュート練をしていた。
静かな体育館で、ボールが落ちる音は儚く聞こえる。
なんだかその背中が泣いてるように見えて
思わず声をかけた。
「あれー、ひとりっすかー?」
不釣り合いに明るく聞けば
びくっと肩が揺れた。
「なんだ、黄瀬か」
振り返った表情は、いつもの笑った顔。
「男バスに来たらいいじゃないっすか」
それに目を丸くしたと思えば
「大輝、なんか言ってた?」
やっぱり青峰っちを気にしているようだった。
いつも強気な彼女が
青峰っちのことになると子供みたいな
可愛い顔をする。
「心配してたっすよ」
「…心配か」
求めていた答えとは違ったようだ。
「黄瀬は、いいね」
＿＿追いつけるんだから。
誰に、なんて野暮なこと聞かない。
「俺は、Aっちとバスケするの好きっすよ」
それに彼女は泣きそうな顔で笑った。
今までで一番悲しい顔なのに
一番綺麗だと思った。
「私、黄瀬のそういう…
真っ直ぐ言葉を伝えてくれるとこ、好きだよ」
トクンと心臓が跳ねた。
不思議だった。好きなんて言われ慣れてるはずなのに。
特別に聞こえた気がした。
思わず彼女を抱き締めてしまいそうになった手に
ボールを収める。
「やるっすか?」
「アンタにはまだ負けないよ」
ごめん。青峰っち。
俺もその一人になったっすわ。
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作者名：chieko | 作成日時：2023年12月4日 23時
