名前を呼んで欲しい ページ2
誕生日のあの日、
黄瀬が来る前のあの瞬間を思い出す
『っー、ゆきっ…』
真っ赤な顔で恥ずかしそうに
必死に俺の名前を呼ぼうとするAに
胸が大きく鳴ったのを覚えている。
でも、それ以来
一向にそんな気配はない。
安定の笠松先輩呼び。
でも、ごくごく、稀に呼ぶ時がある。
「ゆきちゃん」
こてんと俺の肩に首を傾げて
上目遣いで見てくるA
正直に言おう。
この呼び方の時のAはすっっげぇ可愛い
「んだよ…」
「くっつきたいだけ」
俺がどんなに我慢しているか
微塵もわかっていないのだろう。
"ゆきちゃん"呼びの時は
基本、甘えたいモードの時だ。
「ゆきちゃん、聞いてる?」
基本敬語は変わらないが
たまに、タメ口になる。
気を抜いている感じが
たまらなく可愛いかったりする。
「聞いてる」
「じゃあこっち見て」
そして、これが発動するのは
だいたい俺がパソコンでレポート書いたり
長い間放置している時
それがわかってやってる俺は
もしかしなくても確信犯かもしれない。
「しょうがねぇな」
口ではそうは言っても口角は上がり
身体と心は待ってましたと言わんばかりに高鳴って
Aの方を向く。
Aは嬉しそうに、ふにゃりと笑うと
ぎゅっと抱きついてきた。
あー、もう幸せ
「今日はすげぇ甘えただな」
「別に、笠松先輩がパソコンばっかで暇だったから」
恥ずかしかったのか、悔しかったのか
急にツンの方に切り替えようとする
Aに最早笑いが止まらない。
「なに、笑ってるんですか」
膨らむ頬
キッと釣り上がった目
それすら可愛い
「可愛いなって思っただけ」
かぁっと効果音が聞こえそうなくらい
顔を真っ赤にさせる。
「ずるい」
「笠松先輩って、急にっ、男の人みたいになる」
真っ赤な顔を手で覆いながら呟いた言葉に
俺の目は点になる。
「いや、最初っから男だろ」
「だから、そういうことじゃなくて」
＿＿ドキドキする
蚊の鳴くような声でも
静かな部屋では、ハッキリ俺の耳に届く
「A、手、どけろ」
「や、です。だって､まっか…」
「だから見てぇ」
無理やり退かせば
真っ赤ですっげぇ可愛い顔が見えた。
「か、笠松せんぱ…」
「名前で呼べよ」
「ゆき、ちゃん…」
「"ちゃん"はいらねぇ」
頬を触ると柔らかく熱い
恥ずかしいのを我慢しているのか目が潤んでいく。
「やっぱり、ずるい…っ…でも、」
ずるいのはどっちだよ。
「すき、ゆきお」
あぁ、もう、俺の彼女は可愛い
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作者名：chieko | 作成日時：2024年3月5日 11時
