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「あのぉ、更級Aさんですか?」
「えっあ、そうですけど、どちらさ…………もしかして、渕脇美夜さんですか?」
そこには、私より一回りも背が低くて、ふわふわという言葉を体現したかのようなかわいらしい姿の女の子、もとい渕脇美夜さんがいた。なんでここに渕脇さんが?言いようのない不安が私の心を一瞬にして蝕む。
「おばあちゃん、俺ら行くから。また今度ね」
「あぁ、また今度」
翔真君が、私を通り過ぎて渕脇さんの所に行く。自然な動きで彼女の白い手と、翔真君の骨ばった手が繋ぎ合わされる。渕脇さんの指の間に、翔真君の指。翔真君の指の間に、渕脇さんの指。恋人繋ぎである。
「日陰で話そ、A」
「うん……」
その瞬間、私は余計なくらいに悟ってしまった。今日の外出は、私と翔真君のデートではないということ。待ち合わせしたのは私と翔真君だけではなかったこと。渕脇さんと翔真君が一緒に待ち合わせ場所に来たということ。これは、翔真君と渕脇さんのデートだということ。
近くにある公園に入って、日陰のベンチに座った。二人がけの椅子に、手を繋いだままの翔真君と渕脇さん。その前の二人がけの椅子に、私一人だけ。────なんだか、私だけ仲間はずれにされているみたい。
「あ、奉仕活動の時一緒だったんだけど、覚えてますか……?」
「はい、もちろん。新しく入ったって兵藤君から聞きました。すごいかわいい子が入ったなって思って」
「あ…………ありがとうございます」
他人から貰った小さな賞賛の言葉だけで赤く染ってしまう彼女の頬。芯までかわいらしい渕脇さんと、どこまでもかわいくない私。どちらが勝つなんて火を見るより明らかだ。
「A、改めて紹介すると、こちら生徒会の渕脇さん。一年の時は同じクラスで学級委員やってて、今年は違うクラスになっちゃったんだけど。俺ら付き合ってるの」
付き合ってるの。
当たり前とでも言うかのごとく告げられたその言葉。"そんな簡単に言わないでよ!恥ずかしいじゃん!""別にいいじゃん"
目の前で仲良く喋りあっているはずの二人が、急に遠く離れていく感覚に襲われた。
「Aは特に親しい女友達だし、美夜と仲良くやって欲しいんだ。だから今日さ、この三人で一緒に遊園地行かない?」
「……うん、いいね」
泣くことも不満を言うことも許されない翔真君の圧。逆らえなくて、でも本当は逆らいたくて。そんな私の気持ちは、今日もひっそりとその影を殺し、深く深くに沈殿していく。
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わっきー - すみません行きなりで僕のしりあいですか? (4月18日 8時) (レス) @page16 id: 8d936262b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:香綾 | 作成日時:2019年8月7日 18時