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「あぁぁぁぁぁ」
ボスン、と思いっきりベッドに身を投げる。ギシ、と少しだけ鳴った音には無視を。回想に耽り、恥ずかしさから喚くという行動をひたすら繰り返していれば、体も心もすぐに暖かくなってきた。
(夢?夢にしては現実的だったし、でも、でもでも)
現実と地続きの夢なんて聞いたことがない。
私の顔の横に置かれた、筋肉が程よくついた腕。艷麗に歪む唇、とろりと甘い三日月の双眸。重なった唇の感触。たまに漏れる吐息。腰に添えられた大きな手の温度…………
ボッと顔が再び赤くなったのを感じて、枕に顔を埋めて喚いた。
初めてのキスだった。手も繋いだ。すぐ近くに翔真君の顔があった。翔真君が、私を見ていた。
(翔真君、翔真君翔真君……)
心の中で名前をつぶやくとかいう、自分の変態のような現状にさらに恥ずかしくなる。だけど変態のようになってしまうのは仕方がないと思う。なぜなら、好きな人とキスをしてしまったんだから。
(そうだ、私キスして、翔真君に手を握って送ってもらって、でも集合場所が見えた時に手が離れて、翔真君が渕脇さんに駆け寄って……)
刹那、夢と地続きの厳しい現実に、一気に心が重くなった。集合場所にいる渕脇さんが視界に入るまであんなに翔真君は私を見てくれたのに、彼女が見えた途端直ぐに私は彼の視界から消えてしまったのだ。
(私はサブ、都合のいい女)
自分のさらに落ちた現状に思わずため息をつく。夢を見るのは構わないが、夢を見て現実を忘れてはならない。翔真君の好きな人はあくまで渕脇さん。さっきのはさしずめ、渕脇さんとする時の練習なのだろう。
(練習なんていらない。唇が触れるだけのキスでも、あの私がこんなになっちゃうんだから。だから練習なんてしてほしくなかったのに)
練習だったとしてもできてよかった、なんて笑う私がいる。
私だけを見てほしい。私を愛して欲しい。そんなことを私が願う権利はとっくの昔に投げ捨てた。そんなこと知っているのに。誰より知っているのに。自分が悪いことを、誰よりも私が知っているのに。
それでも望んでしまうのだ。もっと、私だけを、ずっと、二人だけで。めんどくさい愛の言葉達。
(翔真君、好きだよ、大好き)
だからこのめんどくさい女を上手く使って、渕脇さんを器用に愛してあげて。
自分勝手な愛情を注いだ罪は重く残酷だ。だが私には、その罪を自分から受ける道の他に道はない。
寂しい、愛して欲しいだなんて気持ちに蓋をして、溢れる涙に無視をして、私は愛を貫く。
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わっきー - すみません行きなりで僕のしりあいですか? (4月18日 8時) (レス) @page16 id: 8d936262b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:香綾 | 作成日時:2019年8月7日 18時