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「ふぁれふぁふぃふんふぇふぉうへ」
「口の中に食べ物入れたまま喋らないでよ。きったないわね」

パカが去っていった直後の会話である。
アカツキが料理を頬張ったまま喋り、
嫌悪感を顕にしながらカリンが毒づいた。
ゴクンと呑み込んでもう一度話す。

「だれが弾くんでしょうね」
「確かに······外部の者じゃないだろうしな」

いつもはないピアノに目を向けて首をかしげる。

「いけすかねぇやつなら追い出すだけでェ」
「カイさん物騒だにゃ」

そんな会話を知ってか知らずか。音もなく開いた扉。
はっとしたようにほぼ全員、マキノ以外が開いた扉を凝視した。

コツコツと音をさせて踏み出されるすらりとした足。黒い靴。
白く細いなめらかそうな手。その袖に光る涙の形のカフスピン。
凛とした、愁いと強かさのこもった横顔。
ピアノに歩み寄る度不規則に揺らめく結ばれた金髪。

一同はぼーっとしたようにしばらくその人物を眺めていたが、
彼が足を止め、深く頭を下げるようになってやっと、我を取り戻した。
申し訳程度に拍手を送りながらこそこそと話し合う。

「あ、あれレオさんですよね」
「た、多分······。用事ってもしかしてこれだったのかしら」

椅子に腰掛け、長く細い指を黒と白の鍵盤の上に立ち上がらせる。
まるで舞台上に立つ踊り子のように、彼の指は鍵盤を駆け巡った。
最初は少し頼りなく緊張しているように、されど失敗はなく、
そして次第に力強く、さも楽しげに。
十本の指はそれぞれの役を演じて、モーツァルトの「トルコ行進曲」を奏でた。
誰しもが入り込んでしまう、そんな魅力のある演奏を。

「きれい······」

そう、ぽつりと洩らした声は、だれのものだったか。
いつの間にか、その一曲が終わっていた。
 
 
 

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作者名:花藺 | 作成日時:2017年11月8日 19時

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