22.あの日は夢の中 ページ23
「…すごい、呪霊とも式神ともいえない、超越した何かだ…」
舞い上がる花火を見てそう呟いた。
夏油は、八重のサポートに回る気で今回の任務を引き受けた。
だが、彼女は1人で1級を祓ってしまった。1年生の、4月末で。
それがどんなに恐ろしいことか知ったもんじゃない。
ここまでいくなら、もしかしたら、いや確実に、悟とも…
「それはないよ。傑くん。
一時はどうなることかと思ったけど、結局相手の実力は2級だった。現に今の私ボロボロでしょ。」
「ごめん…心の声が漏れてたか。」
「うん。それに、いつの間にか2級祓ってくれてたんだね。ありがとう。」
「ああ…」
夏油の手の中には、黒い玉があった。呪霊玉。
ここに呪霊を閉じ込めて飲み込むことで、一度だけ自分の支配下に置くことが出来る。
そのために、万事入れ替える必要があるのだ。
だからもっと強い呪霊と戦って、高みを目指さねば強くなれない。
「宙くんのところに行きたいから、傑くんも一緒に来て。」
どこかで、確信があった。
「すやすやだね」
「うん。良かった」
子供の寝顔を見て、心底安心した顔を浮かべる横顔が月明かりに照らされた。
さっき漢らしく戦っていた様が嘘みたいだ。
「…分かったことがあるの。
多分私たちが戦った呪霊の大半は、この子から発生されたものだと思う。」
眠っている子供に聞こえないよう言いながら、背中をやさしく叩いて寝かしつける。
「1級のあの言葉は、今回の事件の被害者である女性スタッフと、加害者の客の会話の一部分。
屋上で揉めてたってことは、客は前までホテルで働いていた人物だと思う。部屋の案内役とかの。…で、多分ソイツは、子供が好きで……」
「ああ、分かってるよ。」
「…この子は、女性スタッフさんの弟さん。
高級ホテルにこんな素朴な男の子1人で入る訳ない。
きっとその男に部屋を案内されて…。
スタッフさんは無事に裁判に勝って、男は仕事を辞めた。でもその3年後の今に………」
ポタッと、その瞳から涙がこぼれ落ちた。
声をあげないようにぐっと堪えて、寝かしつける手を止めない。
夏油は八重の肩をさすった。
彼女は泣きたくないんだろうが、
夏油は心のままに泣いて欲しかった。
「っう、ぁぁ……」
朝日が昇る。
非力な声が風に乗り、知らない街へ飛んでいく。
夏油は壁にもたれて、疲れきって眠った八重の肩を抱いた。
「…Aは、いつまでも優しいね」
私だけの記憶が、今も夢を描く。
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tomishiro(プロフ) - また、本作はバトル描写が中心であり、恋愛描写は続編で明確になります。後者をご希望の方はもう少しお時間を頂きます。どうかご確認下さい。(こんなとこで話してますけど) (2022年6月20日 1時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
karenyoshi0308(プロフ) - 八重はいつか夏油と結ばれるんですか?ってコメント頂いたんですけど、難しいところです。 (2022年6月19日 22時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とみしろ x他1人 | 作成日時:2022年6月3日 10時