23.燦たる少女 ページ24
宙くんを介抱した後、私たちは彼を家族の元へ送り届けた。
きっと1人で裏口から侵入したのだろうが、彼を見つけたのは｢ホテル前｣と言うことにする。
ただでさえ娘を失った両親は、彼を怒鳴ることなく、ただ縋るように抱きしめた。
彼に昨日の記憶はない。
私たちは｢姉を失ったショックで放浪していたのだろう｣と嘘をついた。
それでも彼の傷は消えない。
癒えることはあっても、なかったことにはならない。
それが姉を覚えていられる唯一の呪いだ。
どうしようもないもどかしさが、今も私の胸を締めつける。
｢…ねえ、A｣
｢ん？｣
｢私の6000円使った？｣
｢アッ…｣
傑くんはニコッと笑い、黙った。
今朝。
まだ小鳥しか起きていない早朝に、Aと壁にもたれて居座った。ホテルの一室で。
乱れた前髪を直すように手を伸ばすと、純粋な寝顔が目に入り、反射的に触れるのを拒む。
ただ、深い眠りについて女の体勢が崩れていくのは見過ごせないので、肩を抱いて横にする。
せめてもの布として自分の制服を1枚脱ぎ、かけてやる。
夏油は、昔を思い出していた。
ミーンミーン…ミーンミーン…
ある猛暑の昼。
夏油は前々から気になっていた獣道を渡ると、その先に大きな屋敷を見つけた。
好奇心に忠実な、まだ年端も行かない頃だったので、夏油は裏庭を通って侵入してしまった。
その屋敷の日陰の奥に、白い何かが
｢きみ、誰？小学生？外に出ないの？｣
子供の無邪気さとは残酷なもので、挨拶もなしにタブーなことから口に出す。すると、向こう側から声がした。
猛暑の中では溶けてしまいそうなほど儚い存在がそこには居た。その声を聞き逃さないよう、蝉の音が少し静まる。
｢…日に当たるとダメなの。特に夏は紫外線が強すぎて、すぐに気絶しちゃう｣
｢消える？吸血鬼じゃあるまいし｣
｢やめて！みんなふざけるからお父さんに…、……｣
少女が声を荒らげると、夏油は室内の冷気を浴びた。
まるで冷蔵庫の中のような肌寒さだ。
夏油は少女を"可哀想"だと気づく。
｢早朝の丘の上だったら、風も涼しいし日も浅い。案内してあげるよ｣
｢…丘？｣
｢うん。きっと驚く｣
翌朝。夏油は屋敷の裏庭へ向かった。
そこには既に少女がいた。
怯えるその手をやさしく引いて、丘へと走る。
2人は息を切らしながら、必死に足を動かした。
赤が、少女を染めた。
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tomishiro(プロフ) - また、本作はバトル描写が中心であり、恋愛描写は続編で明確になります。後者をご希望の方はもう少しお時間を頂きます。どうかご確認下さい。(こんなとこで話してますけど) (2022年6月20日 1時) (
レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
karenyoshi0308(プロフ) - 八重はいつか夏油と結ばれるんですか？ってコメント頂いたんですけど、難しいところです。 (2022年6月19日 22時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：とみしろ x他1人 | 作成日時：2022年6月3日 10時
