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ある一般家庭のただの出産、なんの変哲もないただの家庭。
一つ違和感があるとしたら子供を抱いた夫の挙動だった。
「なぁ」
涙を流すわけでもなく、顔を綻ばせるわけでもなく凝視する。
幼いながらにも見てとれる日本人というには少し高い鼻と、日本人を象徴するような闇のように黒い瞳。夫は細かく何回も震える手で子供の頬に触れた後息絶え絶えの妻に溢す。
「誰の子だ？」
たった一言により暖かみを帯びた空気から一転その場に緊張感が走る
言うまでもないことだ、二人は夫婦なんだから。「貴方との子供に決まっている」と。
汗ばむ体で妻はそう言えばいいだけ。
そう言い切ればいいだけ。
「……っ、違う…違うの」
瞳を大きく揺らし額から汗を垂らす。
うわ言のように否定ばかりを繰り返し彼女はそれ以上何も言わなかった。
夫は自分に向かって伸ばされた最愛の妻の手を受け取るでもなくただ見ていた。
夫の手元で何も知らずにキャッキャと無垢な笑みを浮かべる子供は、この場からとても浮いていると言えるだろう。
その場に居合わせた夫の父親は一言も発せずに正座をしたまま固まっている。
曇り空のように重く沈んだ空気に息がつまりそうになりそうで父親は少し口を開けた。
「なぁ、何が違うんだ」
「だから違うの、誤解なの」
「なぁ」
「ごめ、なさっ」
「おい」
「ちがっ」
夫の止まぬ声に妻は半ば目を回しながら、精一杯弁明にもならない何かを紡ぐ。
決して責めているとは言えない夫の語気だが彼女の耳には例え釈迦の言葉だって耳に入らないだろう。
産まれてきた子を抱きつつ放心状態だとしてもひたすら妻に呼び掛ける夫に、被害妄想を掻き立ているかのように必死に何かを否定する妻。
会話も、意思疏通もままならない現世の地獄絵図。
愛し合っていたのに、という問いはもうこの場では機能しないだろう。
最初からおかしかったのだ。
度を越えた愛情表現にお互いの盲信とも呼べる状態。
毎日と言っても差し支えないくらいの頻度での夜枷
誰が悪いとは言わない、誰が悪いとも言えない。
目を背けたくなるようなある一般家庭の一コマはとても“普通”で収まるものではなかった。
そのある異常な家庭で起きた異常な歯車の噛み違いは冗談ですませられるものではない。
たった一度の亀裂、たった一つの仲睦まじい夫婦に起きた正気じゃない間違い。
この夫婦は底無しの異常性を、罪のない子供に擦り付けるしか道はなかったのだろうか。
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蛸山葵(プロフ) - モノクロ(蒼桜)さん» コメントありがとうございます。彼女の過去に需要があるのかどうか不安だったのですが、この作品を通じて何かを感じていただいたようでとても嬉しいです。親バカのようですが私も河上ちゃんのことが好きなので彼女の幸せを願っていただき大変光栄です。 (2月19日 21時) (
レス) id: eddcdf4797 (このIDを非表示/違反報告)
モノクロ(蒼桜)(プロフ) - ぐおぉぉおぉお、、、供給過多、、、。とてもよかったです、。「蛙の子は蛙」だとしても、、ほんの少しでも幸せに生きてくれぇぇぇぇ、、、。 (2月19日 17時) (レス) @page8 id: c1e95133f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蛸山葵 | 作成日時：2024年1月16日 21時
