深みに嵌って ページ16
.
体育館に内心恐る恐る来た北が驚いたのは、Aのいつもと変わらない態度だった。
「北さん!!お疲れ様です」
「__おん…お疲れ」
朗らかに笑うAはいつも通りだし、先程の気まずい雰囲気など全く感じさせられない。近づけば罵るのではなく、平常運転で結婚してくれと言うのだ。
北は不思議に思う反面、申し訳ない気持ちがどんどん膨らんでいく。もしかすると、彼女は自分に気を使って平常心を保っているのではないか。
思春期の女の子が、男に下着を見られて平静で居られるはずがない。Aは不快感を抑えながら自分と話しているのではないか。
そんな深読みが更なる深読みを呼び、北は遂に頭を抱えた。それと同時に、心の隅で彼女の健気さに胸打たれる自分がいることにも気付く。
しかし、彼女の健気さは今に始まったことではない。前から彼女は誰にも分け隔てなく優しく、思いやりのある人間だ。
北は、勿論それを知らない訳では無い
「北さん?どないしたんですか?」
俯いて黙る北を心配したAは、北の顔を覗き込むようにして屈む。北はそんな彼女の整った顔を正面で見ながら、自然と籠る熱を外へ出そうと軽く手で扇ぎながら静かに口を開いた。
「A、さっきはすまんかったな」
「エッ!!あ、気にせんといて下さい!!てか、謝りたいのはコッチの方です!」
「何でAが謝んの、悪いことしたんおれやろ?」
「違います!!北さんの目ェ腐らすよーなもん見せた私があかんって__!!」
Aは謝る北にワタワタ慌てながらそれを止める。そうしながら、先程角名に向かって言った自分の言葉を思い出していた。
北には笑っていて欲しい、いつ何時何があっても。北に申し訳なさそうな顔をさせるほど、Aにとって酷なことは無かった。
Aはふぅ、と一息ついて自分の少し下にある北の澄んだ眼を見つめる。普通の人間にはただの目に見えるそれも、Aにとっては宝石のように綺麗に見えた。
「北さんには、いつも笑っとって欲しいんです。せやから、そんな顔せんといて下さい」
「……」
優しく笑ったAに、北は身動きが取れなくなる。ドポン。勢いよく沈んだと思えば、重くなってどれだけ這い上がろうとしても抜け出せない。
足掻いても、もがいても、どれだけ離そうとしても深みに嵌っていくだけのそれ。
「北さん、結婚して下さい」
ここでいつものように、すんなり"スマン"という言葉が出なかったことが北に対して何よりもその事実を大きく突き付けることとなったのだ。
259人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かなで(プロフ) - この間初めて読んだのですが、面白すぎて一気読みしてしまいました!評価ボタンが一つなのがとても惜しいです笑 これからも頑張ってください! (2020年3月8日 15時) (レス) id: e96d9c0e1e (このIDを非表示/違反報告)
ぴいち(プロフ) - 月埜さん» 月埜さん、コメントありがとうございます。連載当初から見ていただいて、こちらも感謝の気持ちでいっぱいです。最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2020年2月26日 22時) (レス) id: f952b08383 (このIDを非表示/違反報告)
月埜(プロフ) - 完結おめでとうございます。公開初日から読ませて頂きました。月並みな言葉しか言えませんが、主ちゃんと北くんの関係が最初から最後まで本当に素敵だなと思いました。素敵なお話をありがとうございました! (2020年2月26日 18時) (レス) id: d1ca7a883a (このIDを非表示/違反報告)
ぴいち(プロフ) - 柿山さん» 柿山さん今回もお目に止めて頂きありがとうございます!!真っ直ぐな主人公とそれを蔑ろにしてくれない北さんのモダモダした関係が続きますが、気長に読んでいただけたら嬉しいです! (2020年2月14日 10時) (レス) id: f952b08383 (このIDを非表示/違反報告)
柿山(プロフ) - あああ〜〜もう今回も今回とて好きです!!!夢主さんの北さんに対する真っ直ぐすぎる感情表現が堪りません…!!しかもそれを雑に扱うのではなく、丁寧且つスパッと対応する北さんの在り方も素晴らしいです!!!これからゆっくりと楽しみにしております…!!! (2020年2月13日 22時) (レス) id: 296b088bbe (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぴいち | 作成日時:2020年2月13日 21時