雪華 … Snow Crystal ５

RONDO：２６ ページ11

太輔が可哀想…


投げつけられた言葉に、全身が固まった…
唯一動く目だけを佐倉さんの顔に向けた

苦し気な表情…哀しい涙を浮かべた瞳
雅喜さんへの想いが、全身に溢れていた

なんて言えばいい…そんなつもりは全く無いって言えば、この人もオレもこの胸苦しさから解放されるのか…

｢…あ、…オレ…は…｣

声が震える…強ばったカラダを緩ませる為に、小さく息を吐いた…

｢…ゴメンな…さい…私、イヤなコト言ってる…｣
オレに注がれていた射るような視線が外され、その代わりに縋るような表情を向けられた

｢佐倉さん…｣
｢ゴメンね北山くん…でも、怖いの…雅喜がいなくなったら私…苦しくて…息が出来ない…ッ、…お願い、雅喜を好きにならないで…私の雅喜を、アナタの藤ヶ谷くんにしないで…ッ｣

《その人がいなければ、息が出来ない…》

佐倉さんの叫びが、オレのリアルを連れてくる…


誰よりもソレを知ってるオレ…
太輔がもう二度とオレに会いに来ることは無いと分かった時感じた…喪失感と絶望感…

どうして、オレはココにいるんだろう…
白い部屋の中で見上げた天井に、ただボンヤリと目を向けていた

去っていく最終電車の残燈が消えた瞬間が、目の前に浮かぶ…

乗るはずだった電車…
隣にいるはずだった太輔…

そして、もう叶わない…2人だけの約束…

声が枯れるほど泣き、泣くことで雪の様に積もる切なさに胸が潰れそうになった、あの頃は息を吐くことも吸うことも、自分には何の意味も無いことの様に思えた

｢…苦しい…よ…たい、すけ……｣


目の前の佐倉さんは、あの日のオレと同じだ…突然の出来事で大切な人を失う辛さは、オレが一番よく知ってる…

俯き、流れる涙を隠そうと白いハンカチを頬に当ててるその人は、７年前の自分だと思った


｢…大丈夫だよ、オレには今もこれからも…太輔しか見えてない……佐倉さんが心配する様なコトは起きないよ、だから泣かないで…｣

そう告げると、俯いていた佐倉さんが顔を上げた…、キレイな瞳が、また水分を含み頷くコトで頬に零れ落ちた…

｢…北山くん……、ゴメンね…｣
｢佐倉さんが謝ることじゃないよ、オレこそゴメン…余計な心配させて悪かったね…｣

｢ありがとう…北山くん｣
｢…ん…ﾌﾌ、お礼言われるのも…なんかヘンな感じだね…｣


…これでいい…

オレには太輔との想い出があれば、それで充分だ…

想い出の中のオマエは…
オレだけのオマエでいてくれるから…



誰も、要らない…────

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