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「…坂田、やけど。」
「もぉ〜下の名前教えてよぉ!」
甘ったるい声をあげる美玲を冷たい目線で見ていた坂田さんは、暫くその場で観察するように美玲をじっと見つめ、やがてパッと顔を逸らしてしまった。
「Aさん、行こ」
『え、でも…』
「ええから。…あぁ、如月さんやっけ?悪いけどA借りてもええ?」
無理やり私の腕を引っ張った坂田さんは、去る直前に、肩越しに美玲を振り返った。顔を歪めて私を睨む美玲の表情をチラリと一瞥した坂田さんは、引き寄せるように私の肩に手を回し、先程渉が去っていった方向に歩いていく。
「…大丈夫?」
完全に美玲の姿が消えたころ、坂田さんはふとその場に止まって心配そうに私の顔を覗き込んできた。くりくりの大きな目が、私の目とカチリと合う。
『はい、…ありがとう、ございました。』
「今度またなんかあったら、すぐに俺に相談するんやで?」
どこまでも優しい彼に、私の胸がチクリと痛む。同時に、彼がずっと何かを言いたそうに口を開いたり閉じたりを繰り返してるのに気がついた。
『渉のこと、ですか?』
「へっ!?…あぁ、」
私の言葉にビクリを震わせ、視線を彷徨わせる坂田さん。だが、何かを決めたようにぎゅっと唇を引き締めると、頷いた。
「何があったかを細かく聞くつもりはない。…やけど、俺に協力出来ることがあれば、協力させて。うらさんとAさんが調子悪いと、俺も調子狂うねん。」
『そう、ですよね…』
私はともかく、坂田さんと渉は仕事仲間なのだ。私のせいで坂田さんにまで迷惑が及ぶのは、流石に忍びない。
「まぁでも、大体の状況は読めたで。原因ってさっきの女の子やろ?如月美玲やっけ?」
『…はい。』
小さく頷いた私を見て、坂田さんは先程腕を絡めてきた美玲を思い出したのか、小さく顔を顰めた。
「あの子なぁ…少なくとも外見は整っとるし、周りが自分の思い通りに動いてきただけなんやろうけど。」
まさに言うとおり。
私と坂田さんはその場で顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。今は坂田さんとそうしているだけで、心が軽くなるのを感じる。
「俺、あの子と直接話してみる」
だから、坂田さんがそう力強く発言したことに対し私は大層驚いて、目を見開いて彼を見返した。
「やっぱ直接話すのが一番やろ?」
…私が坂田さんと分かりあえる日は、まだまだ先なのかもしれない。
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ハクト(プロフ) - Naoさん» 私も書きながら思いました…特に冷たい笑顔で言われると特に鋭く突き刺さりそうです笑応援ありがとうございます!続編でもよろしくお願いします! (2020年7月1日 22時) (レス) id: 2aaa8e08bf (このIDを非表示/違反報告)
Nao(プロフ) - センラさんに悪女って言われると、直接言われてないけどグサッと来ますね。笑続編待ってます!頑張ってください! (2020年7月1日 21時) (レス) id: b92cb2f456 (このIDを非表示/違反報告)
ハクト(プロフ) - Naoさん» 応援ありがとうございます!とても心強いです(*^^*)毎日更新していく予定なので、今後も楽しみにして頂けると嬉しいです! (2020年6月30日 20時) (レス) id: 2aaa8e08bf (このIDを非表示/違反報告)
Nao(プロフ) - こういうドロドロしてるやつ好きなんですよ…更新される度にハラハラドキドキして面白いです!更新待ってます!頑張ってください! (2020年6月29日 21時) (レス) id: b92cb2f456 (このIDを非表示/違反報告)
ハクト(プロフ) - 翡翠琥珀さん» コメントありがとうございます!読者の皆様に楽しんで頂けるよう、今後も精進してまいりますので、最後までお付き合い頂けると幸いです(*^^*) (2020年6月29日 20時) (レス) id: 2aaa8e08bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハクト | 作成日時:2020年6月19日 17時