・ ページ30
.
ガチャッ
ドアを開ける音がし、私は料理を作る手を止めて急ぎ足で玄関に向かった。
『おかえりなさい』
「A…っ!?」
そこには、靴を脱ぎかけた状態で私を見つめて目を見開く渉の姿があった。
…迎えに来たのが、美玲じゃなくて寂しかった?
残念だった?
そんなことを考えながら、それでも笑顔を浮かべて渉を優しく見つめる。
「A───…、」
待ちきれないとでもいった様子で、見事私の期待を裏切った渉。強く強く私を抱き締めてきた。
「次からは連絡してって言ったよね?」
『…ごめん、』
切なげに渉の声が耳横から聞こえた。
やがて、黙り込んだままの私の頬を両手で挟み込み、渉は目をぎりぎりまで近寄せてじっと見てくる。
「…約束だからね?次からは、絶対。」
『…うん、ごめんなさい』
ポツリと呟くように返事をした私を、渉は正面からにっこり微笑んで、そのまま顔を近付けてくる。…キス、か。
「ん、いい子。」
軽くキスをしてから、私の頭を撫でてきた。
私より少し背の高い彼が、いつもよりかっこよく見えた。
『(勘違いしそうになる)』
渉の行動は、何故いちいち私をドキドキさせるのだろう?私に対してではないのに、私のことを本当に好きなわけじゃないのに、何故あんなに優しいの?
「…ご飯、作ってくれたの?」
台所から香る匂いに気がついたのか、渉が私に尋ねてくる。私はそんな渉に頷き、口を開いた。
『…肉じゃが、好きだよね?』
「うん。…ありがとう。」
そのまま着替えに部屋に行ってしまった彼を見送り、私も最後の味見をしようと台所に向かう。肉じゃがの甘い香りに、自然と口角が上がっていた。
.
「…今日、坂田とセンラ配信じゃん」
独り言を溢した渉に、私は小さく肩を揺らす。
口に出していたことに本人は気付いていない様子で、そのまま表情を変えることなくスマホを弄り続けていた。
『渉、珈琲飲む?』
「ん?…あぁ、ありがとう」
私から珈琲の入ったコップを受け取った渉はそれを一口飲むと、傍のテーブルにコトッと小さく音を立てて置いて、そのまま私の腕を掴んで引っ張ってきた。
『きゃっ』
思わず声を上げた私をそのまま後ろから抱き締め、首筋に顔を埋めてくる。彼の息がかかり、擽ったくて思わず体をよじらせた。けど、彼が私を離してくれる気配はゼロ。
「ねぇA、…これなに?」
.
305人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ハクト(プロフ) - Naoさん» 私も書きながら思いました…特に冷たい笑顔で言われると特に鋭く突き刺さりそうです笑応援ありがとうございます!続編でもよろしくお願いします! (2020年7月1日 22時) (レス) id: 2aaa8e08bf (このIDを非表示/違反報告)
Nao(プロフ) - センラさんに悪女って言われると、直接言われてないけどグサッと来ますね。笑続編待ってます!頑張ってください! (2020年7月1日 21時) (レス) id: b92cb2f456 (このIDを非表示/違反報告)
ハクト(プロフ) - Naoさん» 応援ありがとうございます!とても心強いです(*^^*)毎日更新していく予定なので、今後も楽しみにして頂けると嬉しいです! (2020年6月30日 20時) (レス) id: 2aaa8e08bf (このIDを非表示/違反報告)
Nao(プロフ) - こういうドロドロしてるやつ好きなんですよ…更新される度にハラハラドキドキして面白いです!更新待ってます!頑張ってください! (2020年6月29日 21時) (レス) id: b92cb2f456 (このIDを非表示/違反報告)
ハクト(プロフ) - 翡翠琥珀さん» コメントありがとうございます!読者の皆様に楽しんで頂けるよう、今後も精進してまいりますので、最後までお付き合い頂けると幸いです(*^^*) (2020年6月29日 20時) (レス) id: 2aaa8e08bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハクト | 作成日時:2020年6月19日 17時