【Ran】カルラブ

・触 れ る ページ44

「行かないで、下さい…。
あなたの歌う曲を作れるのは、私、だけなんです。」


「…。」


「本当はこんなこと言ったら困ると思って、黒崎さんの足を引っ張る真似なんて出来なかった。

会ったら引き止めちゃう。
私は黒崎さんの背中を押してあげなきゃいけなきゃいけないのに、

私一人の我儘で、夢がダメになっちゃうんです。」

「…それで、今まで部屋にもどんなかったのか。」

「バンドの本番が終われば戻るつもりだったんですけど、
その日が近づけば近づくほど…
怖くて…」

「…アホか。
お前、本当バカだな。


…なんもわかってねぇ。」


そう言って黒崎さんは私を抱きしめる手に力を込めた。


「…俺は、お前の曲じゃなきゃ、もう歌えねぇ。

本当はあの時、そうやって引き止めて欲しかった。

でもお前に執着してるのは俺だけって分かって悔しかった。
だから、お前のこと忘れるためにバンドの練習にも通ってた。」

「え…。」

「歌えば歌うほど、足りないものを感じちまう。
お前の歌にしかない、俺にしか歌えない歌が足りねぇんだよ。」

「黒崎さん…」

「俺の今の夢は、
お前の作った曲で、お前たちと世界の頂点に立つことだ。」

「っ…わたしも、です。」

「…俺にはお前が必要だ。



もう、何処にも行くな。」


悲痛な声で黒崎さんはそう呟いた。


私が、黒崎さんの傷を
知らず知らずのうちに抉ってしまったかもしれない。

本当にごめんなさい。
でも、こうでもしなきゃ、私と黒崎さんは分かり合えなかったかもしれない。

お互いに不器用だから…
ぶつかりあってからじゃなきゃ分からないんだ。

黒崎さんがゆっくりと体を離し、私を真っ直ぐと見つめた。


「…どこにも行くな。」

「…はいっ！」

私の返事を聞いた黒崎さんは満足そうに笑うと、座ったままだった私を立たせてくれた。

耳元でボソッと、なにかが呟かれた。

「…？
黒崎さん？」

何か言いましたか？と聞こうとした時には、
今度はそっぽは向かず、優しい瞳がこちらに向けられていた。

.
,


「…で、



結局、連れ戻してくれたんだね！
ランランっ！！！」

「れ、嶺二さん、痛いです。」

ぎゅ〜っと嶺二さんに抱きしめられ、身動きも取れない。

「止めろ、嶺二！」

「なーんで？久し振りの再会を味わってるだけじゃん？」

「…えと、すみません。
迷惑をおかけしました。」

「ううん…。
曲もしっかり完成してることだし。
2人の問題も解決したみたいだから良かったよん☆」

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す