ふわり、じわり*2 ページ27
「A!」
何度か呼んではみたが返事がない。
仮に強盗がいたとして、あいつの名前を呼びながら俺が入ってきたとしたら鉢合わせるかどこかからさっさと逃げるだろう。
逃げるとしたって音はするし、今俺はその家の中にいるんだから気付かないわけがない。
なのにそんな物音はしない。鉢合わせなんてしたら俺だってこんなに冷静じゃいられない。
さっき浮かんだ考えが現実味を帯びてきてしまった。
まさか、そんな馬鹿なことをするわけがないと思っていたけど。もしかすると、本当に。
二階端のあいつの部屋に行くとやはりそこにAはいて、姿見が倒れていた。
鏡が割れてあちこちに破片が飛び散っていて、部屋に入るのは危険な気がする。
けどそうも言ってられない。おじさんの寝室の前にあったスリッパを借りて、部屋の中に足を踏み入れた。
部屋の真ん中で座り込んでいるAの手には金槌が握られていた。
「……A、」
「りぶ、?」
「何、してんの」
「……鏡、倒れてきちゃってね、割れちゃった」
「割ったんだろ」
「……だって、そうすれば一緒にいてくれるんでしょ」
「……え、」
「言ったじゃない。私が失明したら、私がもう大丈夫って言うまでは一緒にいてくれるって。
私が大丈夫って言わなければ、ずっと一緒にいてくれるって」
「だからってこんな、お前……それに怪我ひどいし」
「いいよ、ね、一緒にいてくれる?」
「……もし失明したなら、俺がお前の目になるよ」
「じゃあずっと一緒だね」
「……ん」
きっと俺のせいなんだ。
あの時、もっと考えて返事をしたなら、きっとこんなことには。
何で、ああ、どうしてこんなことに。
「……救急車呼ぶから」
「うん」
「痛かったよな」
「平気だよ」
「……そっか」
赤に染まった幼馴染が、痛々しい姿でふわりと笑みを浮かべた。
どうしようもなくなった幼馴染の姿に、じわりと視界が滲んだ。
――
―
退院したAに、あんなことを自分でしてしまって良かったのか、と聞いてみても何のことだの一点張り。
……覚えていないはずがない。自分でやって、あんな怪我までして。
あいつをあんな風にしたのは、きっと俺なんだ。
「りぶ、まだ一人じゃ怖くて歩けないよ」
「……分かった、ほら、つかまって」
「うん」
「俺がAの目になるから」
目にはなるよ。でも、ずっと一緒は守れないんだ。
ごめん、だってさ、もう――……。
俺、お前の隣にいられる自信がないんだよ。
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みなみ(プロフ) - いつ更新するんですか?紅組の方々がかわいそうです (2017年6月26日 19時) (レス) id: eac86c8ff6 (このIDを非表示/違反報告)
いっしー@アンチクロックワイズ(プロフ) - コメント失礼します! 吉采さん、あとがきの所、「いちよう」ではなく「一応」だと思いますよ! 細かい事ですみません。 (2017年5月11日 23時) (レス) id: 21ef9b6105 (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん@浮上率low(プロフ) - nuryaryaさん» コメントありがとうございます。すみません、参加者の間でもその話になりただいま修正中です。修正でき次第また更新とおしらせをさせていただきますのでもう暫くお待ちください! (2017年5月9日 20時) (レス) id: e64004afc3 (このIDを非表示/違反報告)
nuryarya(プロフ) - 文字が読みにくくて頭に入ってこないです。 (2017年5月9日 20時) (レス) id: 5fe90a8655 (このIDを非表示/違反報告)
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