ダーリン、ダーリン/1 ページ11
きみのことはいつだって、なんだって知っていたいのだと笑ってやった。ぽっかり浮かんだ木星のような軽さで、くるりと振り返れば呆気にとられたらしいあなたの顔がばっちり見えて、わたしはそれがどうにもおかしくって、また笑ってしまうのだ。
『ダーリン、ダーリン』
「──やだ、Aちゃん。また来たの」
「うるせー」
呆れかえったあなたの隣をすり抜けてリビングまで一直線。北東の方向にまっすぐ伸びた廊下はy=2xの直線かしら? 隣町の丘陵にある藤棚は今頃満開を迎える頃で、わたしは再来年の今頃に花開く予定のわたしを夢見ては努力を重ね、ときたまこうしてやさぐれる。
程々に大人になってしまったいいお年頃のわたしがこうも甘えきっていられるのは、ひとえに彼が「甘やかし上手」だから。それと、あとちょっとの特権っていうやつのおかげ。それだけだ。
さよなら三角、また来て四角。しかして当分は図形なんて、特に立方体なんて見たくもないのである。習い始めたベクトルは早くもわたしの心を折りにかかってきているので、こうして物理的にも精神的にも距離を置いて、避難することだって決して悪い事だとは限らないのだ。そう思いたいので、そう思うことにするのだ。
「この甘ちゃんめ」
「ちょまいよくんまでわたしをいじめますか?」
むくれてみせれば隣のおうちのコーギーが吠えた。わんぱくでじゃじゃ馬で、それでも憎めないからわたしはあの子みたいになりたいなぁとも思う。犬だけれどちょっと親近感が湧くところがあるのだ。だって楽しいことは大好きなんだもんね。
「別にいじめてないでしょ、ほらおいで」
「わぁい、だいすきお兄ちゃん」
「残念。ちょまいよは『お兄ちゃん』じゃなくて?」
「かれしちゃん」
「そうそう、いいこだね……うん?」
部屋の中まで進めば、ガラスを張ったテーブルの上には分厚い資料とレポートが飛び散らかっていた。どうやら課題だか、勉強だかの最中だったらしい。悪いことしちゃったかな、そう思えば「ちょっと発想悪くて困ってたから、俺もなにか飲もうかな」だなんてエスパーの声がした。
わたしのことはなんでもお見通しですか? できたらわたしも、あなたのこと全部を分かっていられたらなって思うんだけれど、どうでしょう?
ココアが飲みたいと言わずともそれは出てくる。差し入れはコーヒーばかり、彼女たちはわたしが甘いモカしか飲まないことを知らないのだ。しかし彼女たちに分かってほしいとは思わないのだ。
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みなみ(プロフ) - いつ更新するんですか?紅組の方々がかわいそうです (2017年6月26日 19時) (レス) id: eac86c8ff6 (このIDを非表示/違反報告)
いっしー@アンチクロックワイズ(プロフ) - コメント失礼します! 吉采さん、あとがきの所、「いちよう」ではなく「一応」だと思いますよ! 細かい事ですみません。 (2017年5月11日 23時) (レス) id: 21ef9b6105 (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん@浮上率low(プロフ) - nuryaryaさん» コメントありがとうございます。すみません、参加者の間でもその話になりただいま修正中です。修正でき次第また更新とおしらせをさせていただきますのでもう暫くお待ちください! (2017年5月9日 20時) (レス) id: e64004afc3 (このIDを非表示/違反報告)
nuryarya(プロフ) - 文字が読みにくくて頭に入ってこないです。 (2017年5月9日 20時) (レス) id: 5fe90a8655 (このIDを非表示/違反報告)
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