夜殺し【古森元也】 (ページ9)

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9.真ページ9

「着いたよ」

辿り着いた場所は街灯もなく、時計もない、真っ暗な場所だった。いかにも、もってこいの場所なんじゃないか。彼は驚くほど冷静で、数歩先で佇んでいる。

「どうやって殺してくれるの？」

感謝を伝えたい人なんてお母さんくらいしかいないし、この世に未練なんてものないけれど、直後になって足の震えが止まらない。バレないように、平然を装う。

「まぁまぁ、そんな早まらないで！
まず俺の話を聞いてもらいたいんだ。」

ここ座って、と手招きされ彼の隣に腰を下ろす。ここにも彼の優しさは表れていて、芝生の上に座る際汚れないようにタオルを敷いてくれていた。もうこの制服着ることなくなるのに。本当に優しい人、苦しいくらいに。

「俺、夜野さんに話しかけた時、視線感じたからって言ったじゃん」

遠くの方を見つめて彼は続けた。

「実は、俺も夜野さんを見てたって言うか…いや、ごめんね、気持ち悪いよね」

引かないで〜とほっぺたをかく彼は、特徴的な眉を下げて笑う。そんなことより私を見てたってどういうことだ。

「いつかの発表の時、他の人達は興味もなさそうだったけど俺はめっちゃ感動したんだよね。真反対の捉え方、俺が見たことない視点だった。だから、夜野さんがどう世界を見ているのか気になったんだ。」

「それって…あの、夜についてどう思うか的な発表の時の？」

「そうそう、それ！」

まさか、彼も同じだったなんて。知らなかった、私が一方的に彼を見ていただけだったから。彼が私を見ていたなんて気づかなかったし、聞いた今でも信じられない。

「見ているだけじゃわからなかった、だから夜野さんのこと知りたいなって思って声かけたんだ。あの時は急にごめんね」

大丈夫、と答えて顔を足と足の間に埋めた。びっくりしたけど、と聞こえないように呟いて目を閉じた。

「夜野さんは、今でも夜は惨めで可哀想だと思ってる？」

「…うん」

私はそのまま続けた。

「私も、夜と同じようにひとりじゃ何も出来ない、惨めな人間なんだ。だから殺して欲しいの。

…私は、綺麗で、明るくて、太陽に似た君が羨ましい。」

「でも、俺にとって夜野さんは、光があれば輝ける素敵な存在なんだよ。惨めで、寂しい人間なんかじゃない。」

「無理だよ、私は夜に閉じこもって生きてる。これからも、ずっと」

「大丈夫、俺が殺してあげるから。」