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泡が五十五 ページ5

中原が遠征に行って半年程経過した。
久し振りに仕事をする事になったAを迎えに来たのは尾崎だった。


「A、大丈夫かえ?」

「時間は空いたけど、大丈夫」


そう云って微笑むと、尾崎は複雑そうな笑みを返した。


「A、私等は組織に楯突いた者とあらば、誰でも敵と考えねばならぬ。例え、幾ら仲の良い親友だとしてもな」


道すがら、尾崎は何度もAに声を掛けた。
Aは如何してかは判らなかったが、厭な予感が働いた。

果たして 、牢舎に居たのは。




「だ、ざい?」




「A……」




四年間、行方を眩ませていた友人であった。


「A、芥川が来るまでじゃ。聞きだせることは聞いておけ」


尾崎は其れだけ云って、扉の外に出た。
ガチャリと外側の鍵が掛けられた音だけが、厭に響いた。

お互い無言で、見詰め合った。
四年振りの太宰は瞳に光が宿り、日の下で強く生きているのだと感じた。
同時に、彼女は情けなくなった。新たな一歩を踏み出した親友とは対照的に、自身は文字通り堕ちたのだ。
自由を奪われ、過去に囚われ。
目の前で両手首を繋がれている太宰の方がよっぽど自由な気がした。


「A、此方においで」


先に太宰が言葉を発した。
優しい声に、涙が溢れそうになる。

堪えて、首を横に振った。


「そうかい、残念だ。でも話くらい大丈夫だろう?君の役目なのだから」


「如何して、」


知っているの。
その問いは簡単に見つかった。太宰だからだ。


「如何やらあの蛞蝓はしくじったらしい。まァ、私が言えた事じゃないけどね」


悲しげに微笑んだ太宰は、自身の失踪の事を言っているのだろうか。
口振りからして、其れ迄Aを護ってくれていたのは彼だと云うのに。

彼女は未だ一言も発せなかった。


「髪、切ってしまったんだね。誰にして貰ったの?」

「姐さん」


やっと出た言葉が其れかと、自分で呆れた。
太宰は吃驚してから、柔らかく笑った。


「ふふ、そう、姐さん。姐さんは優しいね」


其れで気づいた。
自分が今こうして旧友と言葉を交わせていられるのは、尾崎が計らってくれたからだと。
何せ、異能無効化の異能力を持つ太宰に、彼女の異能は意味がない。


「太宰!」


彼女は太宰に駆け寄った。
此れが仕事でないならば、尾崎の厚意を無駄には出来ない。

抱き着いた身体は以前より健康的で、少し伸びた気がする。
両手を使えない太宰は代わりに、額に口付けを施した。




「久し振りだね、A」

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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年9月24日 9時

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