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幾分時間がたったのだろうか。
さっきまでまばらに通っていた車も、もう見当たらない。
彼女はいまだにオレを抱きしめている。
その力は弱まることなく、離れようとはしなかった。
オレもまた彼女の腕を離そうとはしなかった。
知らない人に抱きしめらている理由も分からなかったし、何もしないでいる自分もよく分からなかった。
しばらくして彼女はオレから離れた。
何も言わなかった。
ただお互いを見つめた。
その何を見つめているか分からない目で、お互いを。
時間がゆっくり過ぎていく。
さっきまでの風はどこに行ってしまったのか。
橙色の明かりが青黒い辺りをぼんやりと照らす。
彼女は消えてしまいそうで、その目の奥にまた、似た目をした人が映った。
時間は進んでいるはずなのに取り残されたみたいだった。
時間の中に飲み込まれていく。
心地よくて、寂しい。
このまま、この瞬間のままでいたい。
どうか時間が進まないでほしい。
何故かそう思っていた。
「…」
その時間に終わりを告げたのは彼女からだった。
ゆっくりと立ち上がり座るオレに手を差し出した。
その手を取り、立ち上がる。
ひどく静かだ。
何も言わず、何も聞かず。
君はただ歩き続けたし、
オレも君の少し後ろをただ歩き続けた。
手にとどまる温もりを離さないように、ただ黙って歩いた。
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作者名：椿 | 作成日時：2021年9月20日 21時
