その89 ページ30
平助「紅っ!聞いてんのかよ、おい!しっかりしろ!」
ぽたぽたと頬を濡らす雫は、平助の涙。
泣かないで。
「しょうがない、よ。私は死ななきゃ、いけなかった、から」
平助「生きるって、オレと一緒に。そう言った!」
ふわっ、と体が持ち上がる。
平助の胸に揺られながら、言葉を紡ぐ。
「生きた、かった。平助と、いっしょに。ずっと、いつまでも」
平助「じゃあ、生きろ!!」
どんどん意識が重くなる。
息をするのが、つらい。
でも、あと少し。お願い。
「私、ね。さっき、初めて生きたいって、思った。でね、その隣には、平助の姿が、あったんだよ」
ぱき
「平助が、きれいな瞳って、言ってくれた紅として、生きて。この腕の中で、ただいまっ、て言って」
ぱきっ
「そんな生き方、してみたかった、なぁ」
平助の涙に交じって、一粒、おちる。
平助「できる、から。帰ろう。」
がくんと、平助が膝をつく。
なんて顔、してるんだよ。
「...笑って」
そっ、とささやく。
その笑顔、大好きだから。
泣きながら笑う平助の顔は、いつものバカな平助。つられて私も笑みをこぼす。
伸ばした手は、今度こそしっかり握られた。もう放すもんかと、平助が再び笑う。
その腕には、私の髪を結んでた紅色の紐がしっかり結ばれてて。
あの瞬間瞬間が、どうしようもなく愛おしかった。
平助「...もう二度と、放さない。何があったって、お前を探すから。」
「信じてるよ...。私が帰る場所は、もう、ここだから。何度だって、ただいまっ、て。」
互いを見つめあって、笑う。
いつもみたいに。
少しでも、一緒にいたいと願うように。
そして、自然と唇は重なった。
城をゆらす砲弾、怒号、銃声。ふりそそぐがれきの中、私は初めて、その味を知った。
血の味がして、ちょっとすっぱい。
繋がった手から、力が抜けていく。
平助の手も、冷たい。多分、羅刹の限界だと思う。
けど、私はね、この瞬間を待ってたんだよ。八千代が消える、この瞬間。私の血が、ただの鬼の血に戻るこの時を。
平助...お前は、生きて。
私は、お前の中で、生き続けるから。
ぱきんっ...
桜が、散った。
ありがとう...
・
「っ、なん、で....」
二度と見ることのできない紅い瞳を思って、オレは静かに泣いた。
口の中に広がる血の味が、紅のものだと、言わずともわかる。
同時に、彼女が意図した、最後の行動に気づいてしまったんだ。
「なんで、オレだけ、生きてるんだよっ...!」
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桜華(プロフ) - 壱月のてふさん» ありがとうございます!! (2019年6月16日 23時) (レス) id: 98b8c85960 (このIDを非表示/違反報告)
壱月のてふ(プロフ) - 今後、薄桜鬼ではないかもしれませんが、また新しい作品を書いていく予定ですので、どうぞよろしくお願いします! (2019年6月16日 17時) (レス) id: d5fc3d3395 (このIDを非表示/違反報告)
壱月のてふ(プロフ) - 桜華さん» 初めまして!返信が遅れてしまってすみませんm(_ _)mコメントありがとうございます!凄く嬉しいです!桜華様の言うとおり、読みは「ゆきな」です!「十鬼の絆」という薄桜鬼の過去の話のヒロインの名前からとらせて頂きました。 (2019年6月16日 17時) (レス) id: d5fc3d3395 (このIDを非表示/違反報告)
桜華(プロフ) - 結構前の作品にコメントしてしまってごめんなさい!もうほんとに感動しましたー!素敵な作品をありがとうございます!!ところで、夢主ちゃんの本当のお名前って「ゆきな」と読むのでしょうか…?2年も経っているのでお返事来ないと思いますが、待ってます…! (2019年2月11日 0時) (レス) id: 98b8c85960 (このIDを非表示/違反報告)
睦月(プロフ) - いずみんさん» 読んでいただけて嬉しいです!どんどん更新していきますね! (2017年8月15日 12時) (レス) id: 967e483124 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:睦月 | 作成日時:2017年5月21日 19時