人生とは甘美である。Jun.M (ページ30)

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…よく聞こえなかったのかもしれない。

耳に届く自分の心臓の音のせいで違う言葉に変換されて聞こえたのかもしれない。

「…はい？」

はぁ、と松本さんが大きな溜息をついた。

「悪いけど何度も言わさないでくれ。
同じことを言うのは好きじゃないんだよ。

…俺は君に興味がある、初めて見た時から。」

松本さんは後ろからそっと自身の右手で私の右手に触れた。

その瞬間身体が電気が走ったかの様にビリビリと痺れた。

そしてその手をぐいっと引っ張られ目の前の景色がぐるりと回転し、私の背中がバンッ、という音ともにドアにぶつかった。

すぐ目の前に松本さんの顔があった。

この間と同じく、とても上質なスーツに身を包んだ彼が、じっと獲物を見つけた様な目で私を見ている。

この視線から逃げたいのに、私は目がそらせない。

身体がじんわりと熱っぽさを感じた。

息が上がって、呼吸がだんだんと乱れる。

「……っっ、ハッ…」

まるで声にならない声が漏れた。

…松本さんも私を見ながら、その呼吸は乱れていた。

時折眉間に皺を寄せ、短い呼吸を吐いた。

「…君といるとおかしくなりそうなのに、その視線から目が離せない。」