第52輪 ページ7
ひゅうっと風が吹き、菊夜の足元の紅や黄色に染まった葉がいくつか宙を舞う。
「あっ…いけない、先に隅にまとめなきゃ」
「…おや、菊夜君。掃き掃除かい?」
「…あ、半兵衛様!」
再び廊下から声がかかり、菊夜はそちらを振り向く。
半兵衛は優雅に手招きして菊夜を呼んだ。
「こんにちは。三成様が掃き掃除でもしてろって言うので…」
「ああ、彼は忙しくしているからね。ところで、君はもうここには慣れたかな?」
「心配り、ありがとうございます。とても心地よく過ごさせてもらってます」
「それならいいんだ。宵君も心配もいらないかな?」
「宵ですか?吉継さんに面白がられてますよ」
「大谷君はきっと彼を気に入ると思っていたよ。見てみたまえ」
半兵衛が目をやった先の廊下を、巻物を咥えた狼が歩いている。
おそらくまだ荷運びをさせられているのだろう、と菊夜は思う。
「…宵君には既に親衛隊なるものまで出来ているらしいね」
「ええっ!?親衛隊…ですか?」
「女中や侍女、小姓、兵士…かなり多くが所属すると噂でね。宵君を見守り、癒される…そんな集まりだそうだ。彼は魅力的な狼だ」
「そうですね、宵は独特で面白いですもの」
すれ違った小姓に話しかけられる狼を見、半兵衛は愉快そうにそう言う。
菊夜は同調する。
なにか惹き付ける魅力が宵にはあるのだ。
「君も、だよ。多くの者が君に興味を持っているようだ」
「私に興味…ですか?」
「勿論。君は明るく優しいし、腕も立つ。そして見目も整っている。何より、吸血鬼なんて存在は今まで豊臣にいなかったんだ」
「未知に対する興味、ですね」
「…ここでは種族や容姿に引け目を感じる必要はないよ。君をとりまくのは僕が躾けた者達だ。…三成君や宵君から、君自身の葛藤について聞いていてね。知っているよ」
種族の話になり、少し俯いていた菊夜はその半兵衛の言葉に、はっと顔を上げる。
「豊臣の力になる者に種族や性別は関係ない。菊夜君には期待しているんだ。君に教えを請う兵士らとも早く馴染んでもらわないとね。躾がなっていない者がいれば遠慮なく告げてくれたまえ」
「…ありがとうございます」
半兵衛の温かい気配りが心に染みる。
戦力目的だったとしても必要とされて悪い気はしない。
「…ところで、これから時間はあるかい?」
「…?空いていますが…?」
「城下へ出よう。昨晩秀吉と、豊臣の一員の君に着物を贈ろうという話になってね」
「えっ?」
「宵君から今日は君の誕生日だと聞いたんだ。君の誕生祝いと入軍祝いを兼ねて…。さぁ、着いてきたまえ」
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作者名:かきくけ子 | 作成日時:2020年8月18日 2時