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第51輪 ページ6

「ぬしが釘を刺すとはな。…まぁ、われはそのような野暮はせぬゆえ」
「問題起こすとしたら俺っすか。分かりました、気になるけど、三成様がそー言うんなら…」

菊夜が過去を話した時の苦い表情。吸血鬼を唾棄し、己と葛藤している姿。
その問いかけは、一個人として扱われたい菊夜を傷付けるものだ。
それらを知っているからこそ、無意識に出た言葉だろう。

三成に気にかけられている事など知りもしない菊夜は、笑顔で宵と話している。

「どうりで、狼煙が上がらないわけね。貴方が妨害してたんだもの」
「人が腰を抜かすサマは滑稽…いや、愉快だった」
「言い方を変えてもあまり変わってないわよ」
「それより、お前の服は新調してもらわないとな。これから冬だ」
「冬…寒いから嫌なのよね。雪が降っても、昔は父さんと母さんが、今は貴方が雪遊びを禁止するもの」

遠くの紅葉した樹木を見ながら菊夜は不満げに言う。

「お前は体温が低い。雪は冷たい上に、感覚まで麻痺させるしな。凍傷になったらどうする」
「ならないわよ、少しくらい雪遊びしたいの!」
「お前は熱中しやすいだろ。凍傷からの壊死…最悪は凍死するぞ」
「大げさよ。早く春が来ないかしら」
「今の秋風にさえ身を震わすようなら雪遊びはなお無理だ。…そう言えば、お前の生まれた日、祝うのを忘れてたな」

菊夜本人でさえも忘れていた、彼女の誕生日を狼は記憶していた。
長月の、八日。まだどこか夏らしさが残る初秋の夜に菊夜は生を受けたのだ。

「律儀なんだから…」
「長月ももう終わるか?約ひと月も遅れたな…」
「いいわよ、宵。覚えててくれただけで嬉しいわ。それより、三成様を待たなきゃ。貴方の歩く早さが早いせいよ」

​────​────

「あら宵。また荷物運びかしら?」

その翌日のこと。
今日も三成が多忙な為、城下町の見回りは行えなかった。
代わりに、落葉の掃き掃除をしていた菊夜。
偶然巻物を咥えて廊下を歩く狼を見つけ、そう声をかけた。
宵は1度巻物を置き、答える。

「…嫌味か?」
「吉継さんは貴方を気に入っているのよ」
「…はぁ…。秋風も冷たい、掃除は早めに切り上げとけよ。お前が風邪をひいたら困る」
「看病は貴方がするものね?」
「恐らくな。じゃぁな、俺は行く」
「ご苦労さま?」
「煩いぞ馬鹿主」

再び巻物を咥えて去って行く狼を見送る。
宵が言った通り、秋風は涼しいを通り越して寒さを感じさせた。
季節は神無月に入ろうとしている。

…紅葉も今が見納めね。
ああ、こうして山になった落ち葉を見ると焼き芋がしたくなるわ。

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作者名:かきくけ子 | 作成日時:2020年8月18日 2時

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