第50輪 ページ5
宵は菊夜に返答しつつ、先に本陣へと足を向けた。
つられて菊夜も本陣へ戻る。
その後ろで、同じように刑部も三成へ話しかける。
「菊夜と戯れておったか…ヒヒッ」
「…刑部。奴は私が本気で斬ろうとした太刀筋を避けたぞ」
「なんと、おなごでありながらぬしの刃を避けるとはなァ。吸血鬼には恐れ入った」
「貴様、あの狼はどう使ったのだ」
「狼煙を上げようとした者を妨害させただけよ。戦況は悪く、狼煙も上がらぬのは哀れよなァ」
菊夜たちを追って、二人も本陣へ向かう。
途中で左近も合流する。
「あれ?三成様キゲン悪くないっすね?あのイカサマ野郎と一戦したあとだってーのに…」
「家康などどうでもいい。左近、貴様は菊夜と戦っただろう。翼を使っている奴はどうだった?」
「…あん時の大鎌、ヤバかったっす。マジで怖かったし、腕斬り飛ばされるかと思ったすもん。三成様、菊夜に興味あるんすね?」
「不愉快な顔をやめろ左近」
ニヤニヤと期待に満ちた目を向けられて、三成は冷たい視線を送った。
「なーんだ、違うんすか。じゃあ言っちゃって良いかな。
左近隊のヤツがどーにも菊夜に一目惚れしたらしくて。話したくてもそいつ、緊張しちゃって話せないらしいんす」
「だから何だ」
「紹介しちゃったり、してくれませんかね?」
「するか。貴様がしろ。それか狼に頼め」
「それが宵さんね、…紹介?菊夜には俺が認める男以外の仲介はしないぞ、って」
「ますますもって、過保護よなァ…」
左近は前を歩く黒狼の口調を真似た。
「菊夜は見られる容姿をしている。内面も見ず容姿に惹かれただけの者などをあの狼が仲介するはずもないな」
「やっぱ、農民たちからすると、吸血鬼ってのは恐ろしいもんなんすかね?」
「人間の生き血を啜る生物であろ?恐れもしよ。ぬしは何も知らぬなぁ…」
「何がすか?」
「吸血鬼は獲物を吸い殺す事もあるそうよ。サテ、あやつはどうであろうな?…ヒヒッ」
刑部は左近をそうからかった。
左近が身を強ばらせるのを見つつ、三成は菊夜が言った言葉を思い出した。
…人間から血を奪い、吸い殺しました。
菊夜もそうした事があったのだ。
両親を殺した人間を殺すため、翼を使い続け、殺戮の限りを尽くす。
その代償として血液不足を生じ、文字通り誰かを吸い殺した。
改めて、自身に仕える女性は吸血鬼という種族だと感じる。
「…刑部、左近。その疑問を菊夜にぶつけるのはやめておけ。いいな」
三成は無意識にそう言っていた。
二人が驚いたように三成を見たが、最も驚いたのは彼自身だ。
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作者名:かきくけ子 | 作成日時:2020年8月18日 2時