ヒロインなんて、なりたくない。７ (前編)

151話 ページ3

「彩ちゃん彩ちゃん、おーはよ！」




　声は菜穂。

　だけど、"彩ちゃん"だなんて。




「うふふ〜、ご報告があります！」




　あ、そうだ。付き合うことになったんだよね、若武くんと。

　だから、顔がでれーっとしてるのか。




「なーに、どうしたのー？」




　答えは分かってるから、自然と笑顔になってしまう。でもそのまま聞いた。

　すると菜穂は、いつもの100倍くらいの満面の笑みを浮かべて、私にぎゅーっと抱きついてきた。こ、これはしばらく惚気るぞ…




「まだ言わないっ！皆とご飯食べるとき、ね！！」

「えーっ、楽しみにしとくね！」




　なるほど、若武くんと一緒に報告するのか。

　うーむ、これは相当嬉しいみたいだね。


　とりあえず、若武くんが憎い。←




「んふふ〜、楽しみにしといて！」




　ここは昇降口なんだし私と一緒に行けばいいのに、たまたま前を歩いていた若武くんの方に走り去っていった。思わずその後ろ姿を睨む。

　私の菜穂なのにっ…。




「立花さん、おはよ。」

「おはよう……って、美門くんか。」




　いつも通り挨拶をした。

　………あ、美門くんか。


　改めて思うと顔が見れなくて、思わず俯く。




「はは、想定内。」

「ご、ごめん……」

「何で謝るの。」




　当然だと思うよ、と上から笑い声が聞こえる。そんな、笑わないで。無理、しないで。


　私、このままじゃもっと最低な子だよね。

　せめて今まで通り接しないと、美門くんもきっと気まずい。ちゃんと決めたのにな。




「もう、大丈夫！切り換える！」

「えっ…」




　勢いよく顔を上げて笑顔を見せた私に、心外だというように目を見開いて驚く美門くん。

　悪戯っ子のようにニヤッとしてみせた。




「それより菜穂たち！デレデレしてたし、きっと成功したんだよ！」





　明るい声でそう言うと、美門くんはますます目を丸くした。そしてすぐに微笑む。

　安心した、というように。

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