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屋台もそれなりに見て回り、俺たちは花火の立ち見を避けるために打ち上げ時刻より早めに川沿いに来ていた。
チラホラと既に花火を待つ人もいた。それに習うように、俺達も芝生の上に腰を下ろして隣同士肩を並べる。
「なんか食うか?」
「じゃあ綿あめ食べたい」
両手を塞いでいた荷物を地面に置いてからAにそう聞いて、目当ての物を渡した。
話の持ち出し方が分からず、彼女の綿あめを聞いて思い出したどうでもいいようなことを話題に出す。
「そういえば、Aは"綿あめ"なんやな」
「え?どういう意味?」
「俺の周りの奴らはみんな"綿菓子"って言うんや。去年も夏祭りの時にその話になってな。違いは何なんやろうかって」
「ああ、それは西と東との地域差らしいよ」
「ほーん、やっぱそうなんか」
「うん。でも綿菓子の方がこう…なんていうか、大人っぽいい言い方だよね」
「そうか?菓子も飴も変わらん気するけどな」
「飴って言う方がなんか甘ったるい感じしない?子供らしさがあるというか。まぁ実際甘いんだけどさ」
彼女が綿菓子を一口サイズにちぎって口に運んでは幸せそうな顔をするのを眺めて、余計にタイミングを逃した。
これ今話すことか…?でも後に持ち越したら余計に言えなくなりそうな気もして、俺は考えている間にもA…と自信なさげに彼女の名前を呼んだ。
彼女は綿菓子を頬張りながら、不思議そうな顔をしてこちらを見た。それから首をかしげたAははっとして、綿菓子を差し出した。
「あ、シッマも食べる?綿あめ」
「え、あー…うん、食べる」
「じゃーはい、あー」
「っ、ぁ、あー…」
違うそうじゃない。
なんて言う余裕もなく、Aが指先でちぎった綿菓子を口元に運んでくるので目を逸らしながらそれを受け入れる。分かっていたが、やはり甘い。思わず甘いと呟いたら、彼女は少しだけ笑っていた。
「甘いもの、苦手?」
「おん…あんまり好きやない」
「じゃあなんで食べたそうにしてたの」
「いや…なんか食べたくなってん」
「ふふっ、何それ」
柔らかく笑うAに、やはり今言うべきだと思った。
「…あの、さ」
けれど声は情けなく震えていて、過去の自分がすぐ後ろで冷めた目で笑っている気がした。
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なーや(プロフ) - こちらでもコメントありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです(泣)まだ夏の話ですけど終わりまで見て下さい笑m(_ _)m (2021年4月10日 22時) (レス) id: 8296248943 (このIDを非表示/違反報告)
相馬(プロフ) - 更新されると、まだ終わらないっておっしゃってましたけど、あ…また日付が進んでいく…と思ってしんどくなります笑毎日更新されるのが楽しみです!! (2021年4月10日 20時) (レス) id: 7501b9a05e (このIDを非表示/違反報告)
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