４０億の時の針

時・30 ページ32

いつも通り 定時であがろうとすると杉野さんに呼ばれた。


まさかの話にびっくり。


慌てて店を飛び出し、通り沿いをキョロキョロ。



「あ！いた！拓斗！！」


「あ、やっと終わった、お疲れ〜」



１０ヵ月ぶりに見た笑顔。


嬉しさのあまり 思わず抱き付いた。



「何で―――！？」


「はぁ？最終面接って 言ったけど？大家さんに。聞いてないの？」



えええええ！？面接！！？



聞いてなーい！！つか！大家さーん！！？



「それより、傘ある？」


「え？」



ん？



ん？



ポツポツと頬に当たるもの…



「やだ！雨だ！！」


「やっぱ、降ってきた――！」



慌てて 店に戻った。


杉野さんに傘を借り、二人で相合傘。



「オッサンくさい傘〜」


「だって 杉野さんだもん」



二人でクスクス笑いながら 歩く。


久しぶりに会えて すごく嬉しい。



「でも、どうやってきたの？お金あったの？」


「ん？ヒッチハイクしてきた〜♪」



ひ、ヒッチハイク！？



「名古屋から！？」


「そ、意外に人情あって 楽しかった」



すご…



ヒッチハイクだなんて…



「男の子だからできることだね」


「だね〜」



男の子って すごいなぁ…


太輔もできるのかな？でも、できても、騒ぎになっちゃうから難しいかもね。


最近、毎日会うから ついつい太輔のことを考え 比較してしまう。



― 太輔なら こうするかな？ああするかな？ ―



… って。



相手は芸能人、欲を出してはいけないと思うけど…



優しく笑ってくれると想いが膨らむ。



あ〜… 私のこと 好きになってくれないかな…



… って、無理だよね… 太輔には噂の彼女がいるもん…



でも、少しぐらいは…



期待しちゃダメかな？



「なぁ、聞いてる？」



… へ？



「また 始まった？藤ヶ谷妄想？」


「！！ち、ちが… わ、ないけど！も〜！！頭の中 覗かないで！！」



恥ずかしくて プンプンと怒ったふり。



話題を再び戻したところで 小さな声で呼ばれた。




― 『 … A… ？ 』 ―




振り向けば 太輔がぼ〜っと雨の中立っていた。




拓斗は不審そうに太輔を見ていた。




無理もない、ロングコートのフードをすっぽり被り、マスクに眼鏡。




一見すると怪しい男性。




期待なんて…




太輔と私は… 芸能人とただのファン…




友達と言われ、有頂天になっていた。




好きになってもらおうなんて 図々しい願いだった。

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