9call Stay ページ10
典明くんとの電話の平均時間は、およそ三十分から一時間半ほど。友達としての通話時間は、普通だと言えると思う。友達、出来たことないから分からないけど。
あの電話から数日、またしても電話が鳴り響いた。
「もしもし」
「もしもし、A」
「典明くんかなって、なんとなく勘で分かっちゃった」
電話越しの温かい声、瞼の裏にはいつだって典明くんの顔が映る。
「いまは、シンガポールにいるんだ。少し時間が出来て、電話することにしたんだ」
「大丈夫だった？敵のスタンド使いたちは……」
「うーん、大丈夫かと言われたら大丈夫じゃあないんだけど、みんな無事だよ」
今すぐにでも、帰ってきて欲しい。そんな危険な旅やめて、日本で平和に暮らしていて欲しい。でも、そんなわたしの身勝手なワガママを彼に伝えたところで、彼は困るだけ。
「典明くん、旅で何か楽しいことあったりする？」
遠回しにしか、わたしは伝えられない。楽しいことが無いからといって、今から引き返すような人ではないと、わたしが一番分かっているはずなのにね。
「あるよ。同い年の友達と談笑することなんて、なかったからとても新鮮で」
「そう……」
「A、心配しすぎだよ。確かに危ない旅だけども、ぼくは覚悟してるんだ」
綺麗な声色が、電話越しに切なく響く。知っていた、典明くんの返答なんて分かりきっていたんだ。
「本当に、気をつけて」
風が彼の考えを変えてくれることを願うけど、きっと変わらない。わたしは彼を知ってるし、幾つも理由を行かないで欲しい理由を挙げても、あなたは行ってしまう。
だったら、今、電話越しでもいい。この瞬間を楽しもう。
「ありがとう、A」
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作者名：山葵しょうちん | 作成日時：2017年10月4日 2時
