11call 本能と揺らぎ ページ12
桜の木がある公園で見たのが、最期の笑顔かもしれない。そんなことはないと思っていたけど、本能がどこか確信ありげに伝えてくる。
それでも、能天気にわたしは考える。典明くんは帰ってくると。
典明くんのいない教室は、わたしにとって虚空も同意義だった。移動教室もお昼の時間も、なんの楽しみもなくて、お弁当も味が薄く感じる。彼はスグ帰ってくる。
「雨宮さん、次移動教室よ」
クラスメイトが、自分の机でボーッとしているわたしを見兼ねたのか、話しかけてくれた。周りを見渡すと、人っ子ひとりいなかった。
「ありがとう……」
その子に告げるとそそくさと、教室から出ていく。あぁ、大丈夫。典明くんはすぐ帰ってくる。もう同じ学校ではないけれとも、もっと会えるようになる。
中学の頃は、先生の気遣いかはたまた偶然か、典明くんとは同じクラスだったのに。
***
「花京院くん、今度映画でも観に行かない?」
読んでいた本を静かに閉じて、紫の瞳がこちらへ向く。
「もちろん。どの映画かな?」
「それは、花京院くんに任せるよ」
「なんだいそれは。提案者は君なのに」
彼は可笑しそうに笑うと、どこからか上映している映画のパンフレットを取り出した。
「君は好きなタイプの映画とかあるかい?」
「映画はあんまり詳しくなくて……花京院くんの好きなの選んでよ」
花京院くんは映画のパンフレットを吟味し始める。真剣みを帯びた表情は、男前そのもの。
「雨宮さんは、インディ・ジョーンズの前作を観たかい?」
「うん。お父さんが連れてってくれたよ」
観ていて面白いだけではなく、楽しかった覚えがある。
「気に入った?」
「とても良かったよ。遊園地の乗り物に乗っているみたいで、楽しかったの」
カラー両面印刷のパンフレットを手に持って、彼はわたしに差し出す。それを受け取ると、肌触りの良い紙が手を滑る。
「じゃあ、この映画にしよう」
「でも君、パンフレットをちゃんと見てないじゃあないか」
「うーん、見なくても花京院くんのパンフレットを見る顔で充分だよ」
そう伝えると、疑問が顔から溢れる花京院くんがいた。
分からなくていいよ。今は、あなたの色んな表情を見ているだけで満足。
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作者名:山葵しょうちん | 作成日時:2017年10月4日 2時