13call その髪型たる所以 ページ14
前髪で、前が見えづらい。周りを見たくないばっかりに、伸ばし続けた前髪はわたしの歩みを邪魔する。
廊下の隅を、人とぶつからないように、床に映る足で判別する。小学生の時、よくやっていた。
「おっと」
「あ、ごめんなさい」
ぶつかった相手を見上げると、わたしよりほんの少し背の高い彼が見えた。
「花京院くんごめんね、前が見えづらくって」
「雨宮さん、ピン、持ってるかい?」
休み時間特有の喧騒が、遠くに聞こえる。突拍子もない花京院くんの問いに戸惑うばかりだ。
「持ってるけれど、何かに必要なの?」
「君に、必要なんだ」
彼の真意が読めないまま、教室のランドセルからピンを取り出す。
殆どの子が活発に外で遊んでいる様が、窓から見える。空っぽの教室は、静寂をもたらす。
わたしと花京院くん以外いない、二人きりの教室で彼にピンを手渡す。彼はそれを受け取ると、おもむろにわたしの顔にかかっている前髪を手にかける。
「え?な、なに……」
「そのまま、動かないでくれるとありがたい」
彼はわたしの問いに返答することなく、手櫛で整えた髪を一束にして、てっぺんで髪を留める。
「出来たよ。これでもうむやみやたらに人とぶつかることは少なくなる」
花京院くんが手を離しても、クリアな視界が続く。
「周りと関わりを持ちたくない気持ちは分かるけど、周りを見ないと逆に面倒臭いと思うんだ」
堂々とするんだ。そう付け加えて、花京院くんは笑う。チャイムが鳴ると、喧騒が教室に近付いてくる。わたしは上手にお礼も言えず、花京院くんは自分の席に着いてしまった。
彼の発言は、わたしに多大な影響を与える。やたしは所謂、このポンパドールという髪型をやめることはなかった。
「雨宮さん、髪型変えたんだね」
話したこともないクラスメートだった。以前、わたしのことを無視していた子達の一人だと思う。確信はないし、顔も名前も覚えてないけれど。
この時点では、わたしは花京院くんとあまり親しくなかった。むしろこれがきっかけで親しくなったと言える。
彼はわたしに、大きなきっかけをくれたのだ。
***
この作品は過去話を織り交ぜて構成していますが、挟まれる過去話は時系列バラバラです。
そして作者は花京院典明の死を受け入れられていないので、短編と書いてありますが中編ほどの長さになると思います。
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作者名:山葵しょうちん | 作成日時:2017年10月4日 2時