４０・・・２８ ページ40
・
突然帰らぬ人となった主を、公爵邸の者たちは大きな衝撃と共に迎えたのは昨日で、訃報から半日あとだった。
そして次期当主のサトシも意識不明と聞き、公爵邸は不安のどん底にあった。
アイリーンは感情をどこかに置き忘れてきたように淡々としており、
それは壊れてしまいそうな危うさを孕んでいた。
彼女を寄る辺ない悲しみの淵から救い出すにはサトシの手が必要で、
執事長はサトシの意識が戻ったと聞くと、無理を承知で迎えをやったのだった。
「サトシ様。どうか奥様をお助けくださいませ」
床に額をこすりつけ懇願する迎えの者をいたわり、すぐさま帰ることを決めたサトシ。
しかめっ面のカズから痛み止めの丸薬を受け取るとそのまま振り向かずに出て行った。
サトシはもともと平民の出で、家族と縁を切り王国に命を捧げる誓約をして王宮に住まう者だった。
そんなサトシがライの養子になってまだ二年だったが、使用人たちは皆サトシが好きだった。
平民出だと蔑む者の多い中、信愛する主が惚れ込む若者に強い興味を持った屋敷の者たちが、
気取らず常に自然体のサトシに好意を持つまでに時間はいらなかった。
そして今、サトシの柔らかな心が、残されたアイリーンを救ってくれると彼らは信じて疑わない。
・
アイリーンがサトシを連れて行ったのはライの寝室だった。
その部屋は――
壁という壁が美しいドレープを描くたっぷりの純白の布で覆われ、
淡い色合いの美しい花々で飾られて、ライへの愛情に溢れていた。
そしてその扉は解放されており、家のもの誰でも会えるようになっているのだ。
「さあ、いらっしゃい」
「…」
入口で足を止め、動けなくなったサトシにアイリーンは優しく声をかける。
「サトシ、ちゃんと見てあげて。あなたのお父様の最後の姿を」
「…っっ」
サトシにとってライの最後の姿はあまりに凄絶で、心に焼印のように刻まれてしまっていた。
「…できなかったんだ。…苦しんでた…のに、俺…」
俯いて苦しそうに言葉を絞り出すサトシに、たおやかな手が伸びてくる。
傷に当たらないようにふわりと、
サトシを包むように抱きしめたアイリーンは、その肩に頬を寄せ、優しく囁いた。
「恐がらないで。大丈夫よ、サトシ。ライはあなたを責めたりしていないわ」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 225人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
bunkichi(プロフ) - AKIRAさんこんにちは。心が通じ合ってる大宮のお話しも大好きです。ほんとにこの2人は一心同体だよね。魘されてる原因がもう1つあるんだね。上級魔道士ニノちゃん、なんとかしてあげて〜！ (2020年7月18日 5時) (
レス) id: b3195af20e (このIDを非表示/違反報告)
ＡＫＩＲＡ(プロフ) - bunkichiさん» bunkichiさん、こんばんは。この数回の更新は四男とのエピ。不機嫌なふりしてめちゃめちゃ心配してる（笑）ここは元のお話を大幅に書き直しました。だって大宮だもん。大好きなシーンになりました。いちごじゃないけど楽しんでもらえたらいいな。次は移行しま〜す！！ (2020年7月18日 1時) (レス) id: 4512a7e1db (このIDを非表示/違反報告)
bunkichi(プロフ) - AKIRAさんこんにちは。更新ありがとう。ライさんが亡くなった後、智くんは周りの人から非難されたりして辛い目に合うのかと思ってたから、少し安心しました。心の傷も体の傷も癒えてなくて苦労してるけど、がんばって健気だわ。続き楽しみにしてます。 (2020年7月11日 11時) (レス) id: 6cd85052c0 (このIDを非表示/違反報告)
bunkichi(プロフ) - えー！まだまだ辛いですって！智くんがかわいそうな目に合うのは慣れてるし、逆に可哀想で萌えちゃうから大丈夫。楽しみにしてまーす。 (2020年6月28日 19時) (レス) id: 6cd85052c0 (このIDを非表示/違反報告)
ＡＫＩＲＡ(プロフ) - bunkichiさん» bunkichiさん、こんにちは。過去編も中盤（え、まだ中盤？）樹海から戻った長男に次の試練が…。そうです。まだまだ辛い！！可哀想だけど、さらに頑張ってもらいます。面白くないかもしれないけど、大事な課程なので。そして付き合ってもらえると信じてます（笑） (2020年6月28日 17時) (レス) id: 4512a7e1db (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ＡＫＩＲＡ
| 作成日時：2020年6月6日 1時
