白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…２東京編 (ページ9)

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「実験じゃないけど、治療の過程でいろいろ試すことになる。
そのデータを蓄積して新しい薬を作るんだ」

「やっぱり実験だろっ」
「マーくん、待って」

食って掛かるマサキを押さえてサトシが俺に頷いた。
「分かった。ジュンを信じるよ。ジュンがその方がいいっていうんなら、そうする」

「サトちゃんっ」
サトシの肩を掴んでマサキが訴える。

「なに言ってんの。実験台だよ？病気を治してもらうんじゃないじゃんか」

「マーくん。おいらね、ずっと苦しかった。いつも具合が悪くて、時々息ができないくらい苦しくなるの…目の前が真っ暗になって音が聞こえなくなることもある」

「それが治るかもしれないなら…子どもの頃みたいに走ったり出来るかもしれないんなら、実験台でも何でもするよ」

ぽろぽろ涙を零すマサキを抱きしめてサトシは続ける。

「おいら、もっとマーくんと会いたいし、せっかく仲良くなったジュンともっと話がしたい。だったら東京にいったほうがいいでしょ」

「うう…っ、サトちゃんずるいよ…そんなこと言われたら…」
「マーくん、大丈夫だよ。心配しないで。だってひとりじゃないから」
　

そうだ、神様の子だから仕方がないと言われ、サトシはずっと一人で耐えてきたんだ。
その事実に愕然とする。

でもその一方で、この村にいたから生きていけたのかもしれないとも思う。
もしもサトシが東京で生まれていたら…きっと原因不明のまま生まれたばかりの小さな命は消えてしまっていただろう。
　

サトシに宥められて、マサキも渋々ながらも納得はしたみたいだ。
そんな二人の様子を見て…俺を信じると言ったサトシの言葉を噛みしめて…俺は出来うるすべてのことをしようと心に誓った。

・

サトシを連れ出すことに同意を得て、カズに手配してもらった電磁波を遮断する特注の車でやっとのことで村から連れ出したのは、神事から五か月後だった。