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淋しさを隠して笑顔で見送るサトシに、後ろ髪を引かれる思いで別れを告げた俺たちは予定通り昼前に村を後にした。例のつり橋を渡り山道をくだり、やっとのことで車に辿りついた俺たちは、ここから一日半かけて東京へ帰る。
山道に慣れてるマサキが先に運転する。
することのない俺はというと、まだ電波が届かないカーラジオからのザーザーいってる雑音を聞きながら、スマホのアンテナが立つのを若干イラつきながら待っている。
サトシのことと血液検査のことをカズに知らせたいんだけどな。
「何処まで行けば電波届くんだよ」
思わず愚痴ると横でマサキが笑った。
「もうしばらく行ったらラジオは聴けるようになるよ。スマホはその先だね」
「まったく、なんてとこだ」
「俺さ、何回かサトちゃんを連れ出したって言ったよね。
子どもの頃、失敗してから学習してさぁ…大人になって車の免許取って…やっと成功したと思ったんだよね」
「だけど、サトちゃんを車に乗せて走り出すとね、しばらくしたらサトちゃんの様子がオカしくなってくるんだ」
真っ直ぐ前を見て運転するマサキの表情は辛そうで、悲しそうで…見ているこっちも切なくなる。
ザリザリッザザザーッ
急にラジオの雑音が大きくなって、途切れ途切れに音楽が聞こえ出した。
「そうそう、こんなふうにラジオから音楽が聞こえ始めてしばらくしたら、サトちゃんはだんだん具合が悪くなってくるんだ。それから、山を下りきると…もうどうしようもなくなって引き返す。初めは単純に体調が悪くなったんだと思ってた」
「車酔いかもって思ったりもした。でも、違ったんだ。三回目にダメだったとき、サトちゃんが言ったんだ。「もういいよ。ありがと」って…でも、それは俺が耐えられなかったからなんだ。
もう限界だった。苦しむサトちゃんを見てられなくなったから…」
俺は掛ける言葉もみつからないまま、ただマサキの辛そうな横顔を見つめているだけだった…
慙愧の念が今もマサキを苦しめていることは間違いない事実で、俺が何かを突き止めることができればそれを払拭できるかもしれないってことも確か。
スマホが使えるようになったら、帰ってすぐに取り掛かれるように手配したいと思って画面のアンテナマークを睨んだ時…はっとなった。
もしかしたら…
「マサキ、その話だけどさ。詳しく教えてくれないか。もしかしたら何か分かるかもしれない」
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作者名：ＡＫＩＲＡ
| 作成日時：2017年5月27日 14時
