【カケ"フ°ロ】目を/に「うつす」話『サマータイムレコード』【二次/夢主】 (ページ31)

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29.「アイタイセカイ」ページ31

シンタローside

「…久し振りだな、アヤノ」

「…うん、本当にね」
少し困った様にアヤノは微笑んだ。
靉靆、という言葉が浮かんだ。
「オレの役目って、何だ」
オレは訊ねる。
ムードなんて知った事か。
他人の命が賭かってる。
アヤノは、また困った様に笑って答えた。
「シンタロー君さ、もう少し…もう少し、雰囲気とか気にしてもいいんじゃない？」
昔から変わらないね、とはにかむ。
「アヤノだってそんな物だろ？」
オレがそう言うと、
「…そうだね」
寂しそうにしていた。
「とにかく。シンタロー君も、分かってるんでしょ？
…九ノ瀬先輩を、探すの」

コノハが九ノ瀬先輩なのは大体分かっていた。
そして、「冴える」が恐らくコノハを模していた事も。

「でも、どうして九ノ瀬先輩を探すんだ？そりゃオレだって会いたいが」
セカイを分かたれても会いたいと、そう思える程度には大切だった。
「『冴える』がね、コノハさん…だっけ？を乗っとるの。でも、九ノ瀬先輩がコノハさんに入れれば。たぶん、『冴える』は出ていくしか無くなる」
成る程、と思った。
恐らく、「冴える」は実体を持たず、器が有って初めて向こうで動けるのだ。
「じゃあ、九ノ瀬先輩をーーー」
オレが勇み足で動こうとした途端。

「それは、たぶん出来ないよ。シンタロー君、アヤノちゃん」
今でもはっきりと覚えている、優しい声がした。

「「九ノ瀬先輩！」」
どういう事ですかと問う。

「僕は一度コノハに入る筈だった。でも、今ここに居るんだ。つまり、僕は拒否されたんだよ」
「もう一度入れないんですか？」
アヤノが訊いた。
「それは分からないな…。
でもね、僕はさ、僕のままで皆と遊びたいんだ」

その途端。
オレの中で、何かが切れた。

「何言ってるんすかッ！？
人の命が賭かってるんだ！そんなッ…そんな、事で…！」
自分でも何でこんな事を言ったのか分からなかった。
でも、この言葉には続きがある。
「…それに！姿なんて、関係ない…先輩は、先輩じゃないッすか！」
頬を熱い物が流れる。
九ノ瀬先輩は、昔の様に一緒に泣くのではなく、笑って慰めてくれた。

「…うん、そうだね。行こうか」
そう、言った。

見計らった様に、異世界の大口が開いた。
オレは、アザミからの餞別の様に思った。

「行こう」
誰ともなく口にする。

大口に入ると、目が眩んだ。
オレ達はこれからセカイを揺るがす「蛇」と相対する。
それでも、オレはメカクシ団でなら…大丈夫だと、思えた。