第四十五話 ページ49
私の見た目で宣うには幾分か幼すぎるその言葉は、つまり無邪気な女の子が「お父さんと結婚するー!」と言うようなものだった。それでもマリーは驚きに目を瞠り、照れたように笑う。
「ありがとう。私も、大好き」
繋いでいた手を、殊更に強く握る。帰ろっか、とマリーが言った。黒い大口が開いて、私とマリー、筐体を呑み込む。一歩を、踏み出す。
マリーと目を合わせた。その目が赤いのは、私の目が熱いのは、能力のせいだけではないのだろう。
目を開くと、電極やら配線やらでゴテゴテと飾り立てられ、筐体と繋がった状態のマリーがいた。有機的でグロテスクな絵面に見えなくもないが、それよりもどこか神秘性があった。
「始めて、良い?」
「いつでもどうぞ」
分かりきった確認をする。今の心境は、信心深い余命僅かな病人が天使の迎えを待つようなものだろうと思う。
だけど、その前に…。
ケンジロウは筐体を弄るのに忙しく、アザミに至っては寝ている。マリーを見ているのは私だけ、私を見ているのはマリーだけだ。
ゆっくりと歩み寄って、マリーの頬に小さく口づけた。
ぱっと、マリーが顔を赤くする。
「触れられるのは、最後だから。
もう、始めて大丈夫」
「…分かった。目を瞑って」
言われた通りにする。最後に見えたのは、マリーの赤く奇麗な瞳。
最後に感じたのは、柔らかな何かが頬に触れる、淡い感触だった。
ややあって、目覚めた私はまずうずくまる。
「なっ…な、なんなんだっ…?」
頬が火照って、見ている人などいないにも関わらず顔が上げられない。しばらくそうしていると、ピコン、と可愛らしい電子音が聞こえた。釣られて顔を上げると、0と1の羅列と青い矢印が見えた。羞恥の熱を振り払うように立ち上がる。矢印の指し示す方向へ進みながら呟いた。
「成功、したんだな」
どれだけの時間眠っていたかは分からないけれど。
ならば、この電子の海を泳いで、メカクシ団の所まで、マリーと「瞠る」の所まで行かなければ。
青い矢印は、導のように所々にあった。進む道は、まるで誰かの旅路をなぞっているみたいだった。
矢印に終点と書かれていた。とことんまで親切だが、はて、彼女はそんなキャラだったろうか。
旅の終わりの場所は燦然と輝いていて、その眩しさに思わず目を閉じてしまう。
暫く待って、光に慣れたのを感じる。
ゆっくりと、目を開く。
最初の景色を忘れないために、網膜に焼き付けるように、
目を瞠るーーー
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作者名:一夏 白 | 作成日時:2017年10月12日 7時