第四十四話 ページ48
「行ってらっしゃい」と、ケンジロウ、アザミが手を振る。
私とマリーは、これからあの学校の地下へと「機械」を取りに向かうのだ。始めは拒否したが、マリーが「一緒がいい」と頑として聞かなかったのだった。
「行って来ます」
二つの声が重なり、黒々として大きな穴が開く。どちらからともなく手を握って、一歩を踏み出した。
暗闇を抜けて、まず見えたのは薄暗がりに佇む小さめの筐体だった。
「これがあの機械か」
「そうだよ」
「…持って帰れるのか?」
「たぶん。『醒ます』とか使えば…たぶん、大丈夫」
「不安だな…まぁ、すぐに見付かったのは良かった。じゃあ、時間も勿体ないし、戻ろうか」
小振りとはいえ機械なのだ。重いだろうし、と筐体に近付く私の、服の裾をマリーが掴んだ。
「ちょっと待って。
話したい事があるの」
「…なに」
マリーは、私と目を合わせて、真摯な面持ちで、お礼がしたかったの、と言った。
「お礼がしたかったの、ずっと。
『目を見張る』…ミハルちゃん、あなたを作…生み出す時に、少しずつ蛇の力を取り戻して行って、どんどん、私が私じゃなくなっちゃうような、そんな気がしてたの。
化物みたいな、何かになっちゃうような…凄く、怖かった。お母さんが居なくなっちゃった時とか、メカクシ団の皆が居なくなっちゃった時とかを思い出して…髪の毛が本物の蛇みたいにゆらゆらしているのが見えると、悲しくなるの。
いつかは、私が、あんな光景を作り出してしまうんじゃ…って。つらかった。悲しかった。怖かったの…。
でも、あなたが、私を化物なんかじゃないって言ってくれた…嬉しかったんだよ、すっごく」
そう言って、私の手を握ってくる。冷たくて、少し震えていた。
私は…ポケットから、白銀に閃くモノを取り出した。
「…え…?」
ナイフだ。
だけど、私はすぐにそれを投げ捨てる。
「お礼をしなきゃいけないのは私も同じだ」
マリーの視線はナイフに釘付けで、それが気に入らなくて「こっち、見て」と言ってしまう。
「メカクシ団は、『ドール』の奴には優しくしてくれた。だけど、私と接する時は疑問と恐怖ばっかりが先に立つみたいで、本当に、嫉妬していた。だけど、マリーだけは、私の隣にいても怖がらなかった。優しくしてくれた。『冴える』が何をしても、マリーだけは守ろうと思った。
なのに、『化物』だなんて言って…それでも赦してくれて。…ありがとう。
私はたぶん、本当にあなたが好きです。子供っぽいけど」
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作者名:一夏 白 | 作成日時:2017年10月12日 7時