第三十二話 ページ36
わたしとマリーが歩き出してから30秒ほど経っただろうか。
相変わらず具合の悪そうなマリーだが、ふらつきながらもきちんと二本足で立っていた。
いや、立ってるだけじゃ困るんですけど。
「どうかしましたか?」
「うん…寒気がして、なんか目が回る」
その顔色は真っ青だった。
置いていこうか。それが一番わたしの精神衛生上正しい気がする。
「置いていかないで」
「まるでわたしの心を読んだ様に」マリーが言った。
それじゃあどうすればいいのだ。連れ立って歩くには、彼女は今余りに脆くなり過ぎていた。
「それじゃあ、よっ、と…これで良いですね」
わたしはマリーをお姫様抱っこする。マリーは突然のことに驚いているみたいだ。だんだん顔まで赤くなっていった。
「そ、その…重くない…?」
「大丈夫ですよ、軽い軽い」
それにこれなら目は見えないし。
揺らさない様に気こそ遣うが、わたし(とマリー)は今までよりずっと速く進み出した。
広いかどうかすらも分からない、そんな闇を歩いているが、道の標はあった。眼前の赤い点は、既に複数が一つ所に集まっていた。重なりあうような二つの点、つまりわたしとマリーもまたそこに近付いている。
やがて、小さく、暖かい光が進む先に見える様になった。それが大きくなるにつれ、音も少し聞こえた。
そして、わたしとマリーは、一軒の家に着いた。
「私の家だ…」
小さな感慨をマリーが漏らす。
ドア、壁、窓、その全てが手作りみたいに素朴で、しかし丈夫に見えた。そして中からは家の風貌に相応しい談笑の音声が漏れ聞こえてきた。
その中に居るキドが、ふとこちらに目を見やった。早く入れ、と誘うように手を動かす。それと、わたしがマリーを抱っこしているのを見てか、微笑ましそうな顔をした。
「下ろしますね」
ゆっくり、衝撃のないようにマリーの足を地面に下ろす。それから家のドアをノックして、開いた。
部屋の中の目が、一斉にこちらを向いた。朗らかだった雰囲気が俄かに引き締まる。
さあ、ここからが本題だと言うように。
アヤノの、キドの、セトの、カノの、モモの、エネの、シンタローの、ヒビヤのハルカの、
ヒヨリ、否、「冴える」の、
そして、ケンジロウの、アザミの、
それぞれの一対の目が真剣な色を帯びる。
「これまでと、これからの話をしよう」
部屋の中心という訳でもない位置で、愉快そうにケンジロウが言った。
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作者名:一夏 白 | 作成日時:2017年10月12日 7時