第三十一話 ページ35
視界に巣食う闇の種類が変わった。今まではモニターの暗い画面を凝視し続ける感覚で、今は纏わりつく黒に沈んでいるような…とにかく、わたしは闇の質の違いで自分が今まで気を失っていたこと、たった今目を覚ましたことを知った。
「ここが、『カゲロウデイズ』…」
「…うん。そうだよ」
誰もいないと思っていた隣からか細い声がした。
「マリーさん、…か?」
暗闇の中にいるせいか、必要以上に声量を抑えてしまった。聞こえているだろうか?
マリーが周りの暗さをものともせずにわたしの目の前に来て、しっかりと目を合わせて答えた。
「合ってる」
そこまでは良かったのだ。
「ねえ、あなたは、誰?」
ここまで近付いても分からないのか。せんせい、しっかり目を見て話していたら、相手が何なのかがわからなくなりました。それじゃあ子供の屁理屈だ。
私はドールだ、分かるか。そう答えようとした。
「わたしは、っ…」
それなのに、なんだろう、この動悸は、この緊張は?わたしにそんな機能があったとは。眼前の赤く見える目から視線を逸らしても、絡み付く蛇のようにわたしから離れない。
蛇の女王を前にして、わたしは睨まれる蛙に成り下がった。
「…わたしは、『目を見張る』蛇です。蛇の宿主の動向が把握でき、っ、
…蛇の宿主を、監視する能力です…」
「ドールちゃんは?どこ?」
自然な面持ちでマリーが訊ねてくる。マリーには敵意の欠片もないが、それは今現在の話。寝惚けた事を言えば寝首を掻かれるが如くわたしの命は潰えるだろう。苦しさを訴え続ける心臓(と呼称することに決めた何か)は既に潰れているも同然だが。
「わたしが、く、喰らいました」
そっか。素気ない返しにも関わらず、マリーの表情は冷たくなく、そして沈鬱だった。
「…あの」
決死の覚悟で声を掛ける。
「なに?」
「他の団員のいるところに行きませんか」
「そうだね。そうしよう」
そう言って立ち上がり、マリーは、それから、とわたしに伝える。
「あんまり、怖がらないでいいよ」
その顔は苦しそうで、目は真っ赤。
「…はい」
案内します、とわたしも立ち上がった。
わたしは、「目を見張る」は、本来女王の統べる蛇に含まれていないから。
今にも倒れそうなマリーの手を引いて、わたしは歩き出した。
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作者名:一夏 白 | 作成日時:2017年10月12日 7時