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41.story ページ42

「私……部屋戻るね」

 Aはそう言ってドアを開ける。

 その瞬間、僕はAの袖を掴んだ。特に何かしようと思ったわけでもない、反射的な行動。

 「えっ……カ、ノ……?」

 当然Aは戸惑いの声をあげる。

 引き留めているからには、何か言わなければいけない。そう思っているのに、言葉が出てこない。

 今更僕が何を言える?

 『僕みたいになってほしくない』なんて、Aを守れなかった僕が偉そうに言える言葉でもない。

 『無理しないで』なんて、優しい言葉をかけるのは、セトやキド、皆の方が嬉しいだろう。きっと、それは僕じゃない。

 僕に出来る事なんて何もない。そんな事とっくに分かってる。

 ……いや、違う。本当は、今すぐにでも謝りたい。遊園地の事、ずっと避けてきたこと、そして何より、『助けたい』なんて思ってきたのに君を苦しめてしまった、その事実を。

 キドは、『A、最近お前に嫌われたんじゃないかって心配してるぞ』と言っていた。

 そんな事を聞いておきながら、ずっと否定せずにいた自分に腹が立つ。

 僕がAを嫌って……?そんな筈がない。違うんだ。

 僕は、嘘をつきながらもずっと、欺いた笑顔じゃない本当の僕を見ようとしてくれる、そんな存在を心の何処かで探し求めていたんだ。

 『カノなんでしょ?……自分を見失ったのは』

 あの時のAの声が脳内で鮮明に再生される。

 ただ、実際その存在を見つけても、本当の僕を知られるのは怖くて、今まで逃げてきてしまっていたんだ。

 もう、このままじゃいけない。

 嫌いなんかじゃない、そう伝えたい。そうする事で君の心を少しでも楽にしてあげられるなら。

 嫌いじゃない、なんて遠回しな表現はやめよう。本当は気付いてたんだ。


 "大好きな"Aの袖を掴むこの手を、まだ離したくない。ただそう思った。

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作者名:夜桜
作成日時:2017年9月24日 0時

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