story.37 ページ38
キドの作った美味しい昼食を食べた後、私はリビングのドアの前に立っている。
これは最近気づいた事だが、能力の発動と同時に体力が削られる。発動させたい訳でもないのに迷惑だ。
そんなこんなで喉が乾いてしまったので、今から水を飲もうというところだ。
少し前までは皆と笑いあっていた場所だというのに、いざ入るとなると謎に緊張してしまう。
顔を隠すようにフードを深く被って、カチャリ、となるべく音を立てないようにドアを開けた。
そこには、ソファーで雑誌を読むカノ、マリーちゃんとバイトが休みだったのか、造花作りを手伝うセトがいて、キッチンには食器を洗うキドがいた。
静かなドアの音に、全員が振り返ったのが分かる。思わずパーカーの裾を握りしめ、目線を落としたままキッチンに向かった。
「お、A、どうかしたか？」
「ううん、ごめんね……。水飲みに来ただけだから……」
キドに返す言葉も、小さなか細い声しか出なかった。
ほら、とコップに水を汲んでくれたキドに、これまた小さくお礼を言って飲み干す。情けない。
「Aさん、大丈夫っすか？もし辛くなかったらっすけど、たまには来た方がいいっすよ？」
「そうだよ……たくさんお話出来たら楽しいから、ね？」
部屋に戻ろうとした時、セトとマリーちゃんが私に声をかけてくれた。
「……うん。そうだね……。ありがう。私は全然元気だから、心配しないで」
皆はどうして私に優しくしてくれるの？
見捨ててしまえば楽ってこと、本当は気づいてるんじゃないのかな
どうして……
「無理しないで、ちゃんと吐き出した方がいいっすよ？」
本当なら、『欺く』でとびきり明るい自分を見せておきたい。でも、それはできない。私が能力を使えば、カノも使うことになってしまう。
「大丈夫、無理なんかしてないよ……！」
「じゃあ、フード取ってちゃんと顔あげるっす」
セトが優しく私のフードを取る。悪気がないってことは分かってる。でも、私は駄目だった。
私の顔が見えるその瞬間、私は欺いた。いつもの笑顔に。
初めて能力で作り上げたいつもの笑顔。私はその笑顔に、いつもの自分が溶け混んで行くのを感じた。
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作者名：夜桜
作成日時：2017年9月24日 0時
